「みなし残業制度を運用してきたが、残業代の管理が曖昧だ。基本給にみなし残業代を入れて支払ってきたという実態があるが、就業規則には明記されていない。これまでの未払い残業代などはどのように処理すればいいのだろうか。また、このような状態で就業規則変更をしても良いのだろうか」
「管理監督者を設置したいが、どのようにすれば良いのか分からない。役職手当を払っている人材はいるがいまは役職がなく一般社員のままだ」
「明らかに仕事がないのに定時後にネットサーフィンなどで遊んでいる社員がいる。こんな状態じゃ残業時間管理は無理だ。厳しく社員に定時で帰れと言える人材もいない」
と悩んでいませんか。
結論から申し上げますと、残業代を清算するタイミングを会社側でよく考えておき、就業規則変更を進める必要性があります。
なぜなら、就業規則を変更し、みなし残業に関するルールを明文化することで、訴訟移行時に「提出された変更後の就業規則と実態が違うじゃないか」という厳しい批判に晒されるためです。
残業代未払い請求そのものは民事訴訟のため提出は拒否できますが、使用者が就業規則の提出を拒否した場合に社員は労働基準監督署に就業規則の開示を求めることができます。
つまり、開示を拒否したとしても残業代請求を起こしている相手方は閲覧して証拠として裁判所に変更前の就業規則と変更後の就業規則を提出するということです。
この記事を読めば、「固定残業時間制度へのスムーズな移行」「管理職制(等級制度)を導入」「労働時間管理と上司による部下の業務の把握(勤怠管理と業務分掌把握)」について理解することができます。
就業規則変更で悩んでいる方はぜひ、最後まで読んでいって下さい。
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【超重要】固定残業時間制度(みなし残業制度)へのスムーズな移行のため、残業代をいつ支払うか、時効まで待つのかを決める
これまで残業代を支払ってこなかった企業としては、真正面から未払い残業に向き合って支払ってしまうのか、それとも時効まで待つのかを決める必要性があります。
なぜなら、就業規則変更後の訴訟対応などが無策になると裁判に悪影響となるためです。
就業規則の変更を考えている場合、多くは会社の実態と現代の労務管理に適した形で就業規則変更がなされます。
しかし、変更前の古い就業規則は労働基準監督署に保管されており、万一未払い残業代請求の訴訟が起こると取り寄せられる可能性が残ります。古い就業規則の方に残業に関する事項がなく、新しい就業規則にびっしりと変更された就業規則が書かれていたらそれだけで相手に攻撃される点が増えます。
つまり、残業代を支払わない場合は就業規則変更をできるだけ静かに行う必要性があります。
一方で残業代を支払う方向に振り切った場合、過去を清算することができるため、大々的に就業規則変更が可能となります。
どのようなスタンスで残業代未払い状態に向き合うかを経営者は必ず決めておきましょう。
労務管理は基本的に「裁判を起こされないようにする」のではなく「裁判が起こったら具体的に反論するために制度構築しよう」という考え方を持つことが重要です。
時効を待つ場合は就業規則を変更し、3年経過を待つ
残業代請求の時効は現在3年間であり、この期間を過ぎれば就業規則変更前の残業代に関してはおびえる必要性がありません。
そのため、労働者代表に出来るだけ小さな声で内容を伝えて就業規則変更への同意を依頼し、同意を取り付けることになります。
経営方針に理解のある労働者代表が相手であれば「出来るだけ就業規則変更の話は周囲にしないで欲しい」と伝えて大っぴらに言わないでねと念押ししておきましょう。
また、就業規則変更後の周知の方法に関してはパソコンの共有フォルダにアップロードしておくようにしましょう。就業規則が変更されたからといって新しい就業規則を配布する周知方法を取ると社員が変更箇所を気にする可能性が高いです。
就業規則内容を変更したあと、適切に労務管理を行い残業に関する区分をはっきりとさせて、訴訟が3年間起こらなければ会社としては残業代を支払う必要性がなくなります。
残業代を支払う場合は出来るだけ少額支払い和解を狙う
残業代を支払い過去に決着をつける場合には、従業員と少額で和解をしてしまう方法があります。
日本の裁判は長く、民事訴訟は現在実質高裁止まりの二審制となっているとしても3年近い期間がかかります。
そのため、残業代未払い訴訟をしたいと考えている従業員は実は少ないです。
つまり、こっちから少しでも払うよと伝えて満額でなくとも払えば水に流してくれる社員の方が多いということです。
少額でも支払えば「残業代なんてもらえると思ってもいなかったのでラッキー」という社員が存在する会社さえあります。
具体的には、以下の手順で対処しましょう。
・仕掛けるタイミングは就業規則の変更と同時か、もしくは直前です。あるいは社員が騒ぎ始めたら(具体的には残業代のことをやたら社員同士が共有し始めたら、話題になっていたら)でも良いです。これ以上騒がれると大変だと感じたときでも良いでしょう。
・これまでの残業代の一部を和解金として先に支払って本人から一筆貰います。残業代支払い請求の訴訟の和解結果を先に格安で起こしてしまう形を取ります。
例えば未払い残業代が300万円くらいあるなら50万円現金で渡してしまって和解書面には50万円が残業代全額にあたると納得してお金を受け取ったため、後日文句言うのはなしということです。
・和解金受け取りを拒んだ社員は裁判移行する可能性が高いため、先に紛争相手を知ることができます。
実務的には受け取り拒否した人のリスト(お金を受け取った人は直筆の記名押印書類を取られていてもう請求できない)を総務人事にてピックアップして顧問弁護士につないでおいて裁判紛争に移行したらすぐに対応できる状態に温めておくようにしましょう。受け取り拒否をした社員の性格、お給料、借金有無といった情報を顧問弁護士に渡します。和解交渉に役立ちます。借金がいっぱいあってすぐにお金欲しいという人は安く早く和解に持っていける可能性が高いため、借金情報は特に重要な情報となります。
ある程度無事に過去の残業代を清算できたら新しく作った就業規則を直接雇用の社員全員に配布し、変更点などを伝えるようにしましょう。
労働時間管理と上司による部下の業務の把握(勤怠管理と業務分掌把握)
労働時間管理を徹底するにあたって最も重要なことは、上司が部下の仕事を業務分掌によって把握することです。
なぜなら、上司が部下の仕事内容を把握していなければ、そもそも残業せずに帰りなさいという命令を出せないためです。
残業命令は原則として部下が上司に対して残業許可の申請書を提出し、上司が承認しなければ認められません。
みなし残業制度といってもみなし残業時間で支給している固定的な残業代をオーバーした分は残業代支払い義務を負うことになります。
そのため、上司が部下の労働時間と仕事の納期を把握し、不必要な残業をしているときには強く「早く帰れ」と伝える必要性があります。
余計な残業を許可すれば支払うべき残業代が無限に膨れ上がることになります。
必要な残業かどうかを上司が逐次確認し、不必要な残業であれば帰れと言えるような体制構築をしましょう。
業務分掌の作り方
業務分掌の作り方として、一覧表で作ることが望ましいです。
最初に部下に対して「いまやっている仕事を日次、週次、月次、年次で出して欲しい」と伝えてください。
また、突発業務など予期せず飛び込んでくる業務もしっかりと書いてもらいましょう。
最終的には以下の表形式で提出してもらうようにしてください。事例は人事部門で作成しています。
例:人事部の場合
日次業務 | 週次業務 | 月次業務 | 年次業務 | 突発業務 |
勤怠確認(遅刻者) | 人事制度説明会 | 給与計算(給与支払日と締め日によっては残業可能性あり) | 年末調整 | 労働基準監督署監査対応(臨検) |
社員の出欠確認 | 新卒採用説明会 | 安全衛生委員会開催 | 就業規則変更 | 年金機構監査対応 |
事業所内パトロール | 中途採用説明会 | 慶弔関係 | 36協定作成 | 警察署対応(従業員逮捕時) |
経営者への報告業務 | 研修会開催 | 社会保険手続き | 団体交渉対応 | 懲戒業務 |
経営者補佐業務 | 能力開発セミナー開催 | 労働保険手続き | 経営会議参加 | 中途採用面接(書類選考合格者に随時実施) |
事務処理 | 社員のフォロー面談 | 所得税支払い業務 | 新入社員研修 | 中途入社社員研修 |
もしも管理職がまだ任命されていない場合には、社長さんが取りまとめても問題ありません。
重要なことは各社員がいつまでにどの仕事をしなければならないのかを会社として把握することです。
業務分掌がなければある意味、部下に仕事を全部任せて放任していたということにもつながっていき、残業代の支払い根拠も曖昧になります。
しかもこの場合の曖昧さは、裁判になったときに残業時間が全部残業支払い義務のある時間であったと認定されるリスクにもつながっていきます。
社員の残業時間を無根拠のまま放置してタイムカードにダラダラと打刻されないように対処するようにして下さい。
業務分掌が明確になっていれば残業代支払いの際にも納得感をもって残業代支給をすることができます。
勤怠管理はタイムカードと紙の出勤簿どちらが良いのか
勤怠管理に関しては、仕事場の実態に合わせて実施できる勤怠管理を導入することを強くおすすめします。
なぜなら、タイムカードとみなし残業制度はすこぶる相性が悪いためです。
例えば紙の勤怠に労働者自らが労働時間と残業時間を克明に記して、それを上司が追認する形式を取っていればそれは間違いなく「労働者自らが記載し、記名押印した証拠である」と認定される可能性があります。
つまり、残業を許可制にして、これ以上今月は残業をさせられないから帰れと伝えたのに勝手に残業をしていたとして上司が追認の印鑑を押していなければ「残業許可も出していないのに社員が勝手に残業をしたのです」と言い訳することが可能です。
しかし、タイムカードで記録をしていると残業時間を許可していない部分や、社員が私用で会社を抜けて退勤打刻をし忘れていたというケースでも全部残業時間が記録として残ります。
残業許可の曖昧模糊さが残りフル残業の状態が裁判所にも提出され印象として「とんでもない残業時間が計上されているな」と印象的に圧倒的に不利になります。
出来る限りは紙の出勤簿を用意してそれを3年間保管するという運用をする方が良いでしょう。
ただし、職種によってはタイムカードの方が適していることがあります。
ホワイトカラーは机の上に紙とペン、パソコン、印鑑が常備できるため紙の勤怠管理が向いています。
一方で製造現場や接客といったブルーカラー労働者は個人に机がなく、印鑑とペン、紙を常備することが難しいです。
ブルーカラーの方に対してはタイムカードで対応し、ホワイトカラーの方は紙ベース運用が良いでしょう。
ただし、ブルーカラーの方に対してはタイムカードで月末になったら一か月の労働時間を全て集計してエクセル出力し(最近流行のインターネットで活用できるクラウド型の格安勤怠システムではほとんど対応しています)残業時間を明確にして給与計算作業に入るようにしましょう。
まずはどこまでが残業時間なのかをしっかり把握することから始めることが重要です。
また、労働基準監督署に36協定の遵守が出来ているかの監査に入られたとき、パソコンだけで管理している場合は全て記録をデータ媒体で出せと命令される可能性が高いです。
紙運用とタイムカード運用を分けていれば、指摘を受けたとき「実は紙とタイムカードで管理しており、一括ではお見せできるデータになっていないのです。基本的に加工してから給与計算に反映しています。ですから資料提出までにお時間いただけませんか?」と伝えることができます。
36協定などの残業時間に関する監査は毎月一定の期間の残業代をチェックしに監督官が会社訪問するため、最初からしっかりとした資料を出せないといけません。
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管理職制(等級制度)を導入する方法
「役職者が社内に存在するが、明確に管理職と言えるほどの規定を作成していない」という会社も多いと思います。
管理職を社内で創設するにあたって、実は管理職を明確に管理職であると対外的にも思ってもらう必要性があります。
なぜなら、管理職という地位にありながらも実質は労働者だろうと裁判所で判断されると残業代を全額支払う必要性が出てくるためです。
労働基準法42条2項では管理監督者に対して深夜残業以外は支払い義務がないとしています。
例えば、日本マクドナルド事件という通称の有名な裁判では名ばかり管理職という新しい人事用語が出来ました。
名前は管理職ですが、実態としては管理職ではないということで日本マクドナルドが敗訴した事件です。
参考:全基連 日本マクドナルド事件
マクドナルド事件の裁判においては管理職が管理職であると認定されるためには以下の要件を満たしている必要性があるとされました。
・管理職にふさわしい待遇を得ていること
・人事権を保有していること
・企業運営に関して、決定権を保有していること
一般的な企業において管理監督者は一般社員とは異なり、経営と一体的な立場になっているため、経営者に近しい決定権や待遇を得ている必要性があるということです。
例えば管理職にふさわしい待遇を得ていることという条件であれば、一般社員よりも給料が高いといった事実や、人事権の保有(採用の決定権や正社員の人事異動権といった人事権。または人事部や社長に人事に関して交渉できる権限付与)、企業の運営方針に関して社長に直接かけあえる権利といった具体的な権力が目に見える形で付与されていることが重要です。
最後の企業運営に関して決定権を保有していることとしては決算会議や経営会議といった重要な会議において発言権がある社員や、普段から社長にしっかりと経営上の懸念点を伝えてくる社員を選ぶといったことでも問題ありません。
重要なことは他の社員よりもその人材の方が、権限が強く経営に影響を及ぼす人材であるという客観的な事実です。
等級制度移行の場合の管理職制度制定の方法
等級制度という管理職制度を制定する場合、人選基準を明確化する必要性があります。
例えば、以下のような選定方法です。
・管理職登用試験の実施を行い、合格した人材を課長職以上に昇格させる
・社長が信任し、課長職以上に昇格させる
・投票を実施し、得票数の多い社員を課長職以上に昇格させる
管理職登用試験に関しては就業規則を覚えられているかどうかなど人事権を付与するにふさわしい人材かどうかをテストすることが一般的です。
社長が信任する場合には管理職登用の祝いの場を設け、辞令と共に期待する役割を管理職に伝えて選任します。
投票を実施する場合、社員全員に管理職候補の方の名前を伝えて投票してもらい得票数の多かった社員が管理職になります。
投票というと疑問点があるかも知れませんが、大メーカーで工場長(常務級)を選ぶ場合、投票制を採用している会社があります。
いずれの方法も管理職を試験の点数で選ぶか、社長が選ぶか、社員が選ぶかであって客観的事実や公平性を担保するための工夫です。
形式にこだわらない場合は社長さんが信用できる人を管理職に選んでしまえば良いでしょう。
給与の決定方法
これまでみなし残業代制度とはいえど残業代を支払ってこなかったケースでは、給与の決定方法が最重要課題となります。
なぜなら、原則として給与が下がるような運用は認められないためです。
基本的には維持するか、上げるかという選択肢しかありません。
ただ、実務的な運用としてはボーナスで埋めるから給与は普段低めで支給するという方法があります。
例えば係長職までは基本給と残業代で給料が高いですが、課長職になれば残業代が出ないためお給料が下がるという運用です。
実際に大企業でも係長が月給50万円で課長職が38万円という状態になっていることがあります。
その差分を賞与で埋め合わせることで運用しやすくなります。
また、これまで役職のような状態になっている社員の場合には以下のような運用をしてみましょう。
給与
就業規則改正前 | 就業規則改正後 |
係長以下一般職 | 新設・課長職 |
基本給28万円 | 基本給18万円 |
役職手当5万円 | 役職手当15万円 |
基本支給額33万円 | 基本支給額33万円 |
上記の表のように給与額をいじるのではなく賃金の支払い方の名目を変えてしまいます。
基本給は確かに下げていますが、支給金額が同じであれば基本的にクレームはつきません。
就業規則上の文言としては「ここでいう基本給とは、本人の職務内容や技能、勤務実績と勤務への態度、年齢、学歴、最低賃金などを総合的に考慮して反映する給与のことである」と書いておきましょう。単純に基本給の概念がなければ絶対に下げることのできない永久の権利のような状態になります。
特に注意して欲しい点として、就業規則をせっかく改正するのであれば、これを機に高すぎる基本給は他の項目に振ってしまってください。
なぜなら、基本給という記載をすると本人の同意なく給与を下げることが難しくなるためです。
例えば基本給が30万円になってしまっている平社員なら以下のように切り替えてしまいましょう。
就業規則改正前 | 就業規則改正後 |
基本給30万円 | 基本給166,560円(東京都最低賃金×160時間) |
手当なし | 勤勉手当 43,440円 |
手当なし | 住居手当 3万円 |
手当なし | 営業奨励手当 3万円 |
手当なし | 技能手当 3万円 |
総支給額30万円 | 総支給額30万円 |
上記のように基本給を手当てに振り替えておくことで経営困難な状況などに陥った時、社員に「申し訳ないが今年はかなり厳しい年になるので、せめて住居手当だけはなしにしてもらえないか?来年からは復活するという約束をするから」という風に労使で協調しやすくなります。
反対に基本給だけで運用している状態であれば労働基準法的にほぼ社員に訴えられたら抗弁できずにストレート負けという可能性があります。
また、役職手当に関してはザックリと以下のように表を作ることで運用しやすくなります。
役職名 | 役職手当 |
一般職 | なし |
班長職 | 3万円 |
係長職 | 5万円 |
課長職 | 15万円 |
部長職 | 30万円 |
役員(執行役員以上) | 別途役員報酬規程による |
注意点としてはもしも社員を役員昇格させたい場合、給与を就業規則上に晒すことは避けてください。
就業規則は社員であれば誰でも見ることが可能です。
そのため、役員報酬をあまり一般社員に知られない方が良いですから、別途役員報酬規程を作りこれに関しては社員との独自協定だということでこっそり持っておきましょう。
もしも一般社員が出世できる上限が部長職までの場合、役員の欄は設けずに部長職で止めておきましょう。
管理職に任せる仕事の役割を任命前に決めておく
管理職に任せる仕事の役割を任命前に決めておきましょう。
なぜなら、管理職には管理職がするべき仕事があり、役割を果たしてもらうことで残業時間管理がスムーズになるためです。
例えば、一般的な企業では課長職が係長職以下の部下の勤怠の承認作業を毎日行い、人事部に送信する給与計算のベースとなる勤怠のチェックをします。
勤怠チェックが毎日しっかりと出来ていれば、給与計算の工数が省けます。また、残業が多くなっていれば「今月はもうこれ以上残業をするな」と管理職が社員に警告をすることが可能です。
毎日上司が残業時間を集計し、目を光らせていなければそもそも労務管理自体が成り立ちません。
また、部下が仕事中にケガや熱中症といった労災を起こした場合には素早く119番通報をして救急車を呼ぶと言った安全に関する業務も担います。
管理職にしてもらう仕事内容を任命前にイメージして「この人なら任せることができるだろう」という人材に管理職になってもらうことが望ましいです。
反対に部下の面倒見が悪い人が管理職になると大きな労務トラブルを抱えることになるでしょう。
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残業時間を抑制するためにできる実例5選
残業時間を抑制するためには、実際に管理職に任用された人材と経営者が同じ認識をもって取り組むことが重要です。
なぜなら、大企業から中小企業に至るまで働き方改革によって残業時間を減らすことがトレンドとなっているためです。
特に現場仕事をしている労働者(ブルーカラー)は動けば動いた分だけ企業利益になるのに対して、事務職などのホワイトカラーは残業してもお金に結びつかないことも多いです。
事務職に関してはお金を生まない傾向にあることから、残業をさせないように運用することが重要です。
残業時間を抑制するためには以下の対策をしてください。
・定時後ビルの電源ごと落とす(自社ビルの場合)
・定時後wifi接続を切る
・現場は多能工化(たのうこうか)を推進する
・積極的に残業させない雰囲気を作る
・残業可能時間を意識させる
それぞれについて解説します。
定時後ビルの電源ごと落とす(自社ビルの場合)
定時後のビルの電源ごと落としてしまい、残業を強制的にできなくする方法を取れば残業時間が減ります。
どの会社でも事務職や営業職などホワイトカラー系職種の社員は残業時間が終わってもなかなか家に帰らないというケースがあります。
業務分掌がしっかりとしていない会社の場合、定時で仕事場から帰ると「あいつ暇なんじゃないか」と疑われ、仕事が無限に降ってくる状態になっているためです。
社員が残業をすることなく定時で上がる方が良いという風土を作る必要性があります。
また、この方法で自社ビルの電源を落としたとしても電池式の卓上ライトを持ち込む従業員が一定数存在します。
卓上ライトで仕事をしている社員の仕事量を聞き、他の社員と仕事をシェアして早く帰れるように業務分掌計画を立てましょう。
定時後wifi接続を切る
社員がネットサーフィンをしていてなかなか家に帰りたがらない場合、定時後にwifi接続を切るという手段が有効です。
なぜなら、wifi接続を落としてしまえばパソコンからネットにアクセスできず、仕事も出来なくなるためです。
20代から30代の若手社員に関しては、インターネットがないと時間を潰せない社員も多いため、定時後に会社から帰ってくれる可能性が高いです。
現場は多能工化(たのうこうか)を推進する
製造業だけではなく接客業にも現場社員の多能工化を求めて育成する動きが広がっています。
1人の社員が様々な仕事ができる状態になることで、1人当たりの残業負荷が減る仕組みです。
例えばこれまでキッチンで調理業務だけやっていた社員が他の業務も兼任できるようになるとお客さんの少ない時間帯は1人の社員で回せることになります。
そのため、他の社員は出勤や残業をせずに済むようになります。
1人で様々な仕事ができる社員を増やすことが重要です。
積極的に残業させない雰囲気を作る
残業時間管理を適正化するためには、管理職が積極的に残業させない雰囲気を作っていくことが重要です。
なぜなら、管理職が残業を実質的に容認してしまうといつまで経っても定時で上がることが出来ないためです。
基本的に定時になったら管理職が部下に対して「早く家に帰れ」というようにしましょう。
また、管理職自身も定時になったら退勤することも重要です。
管理職の場合は経営陣からの突発的な指示への対応があるため、定時で上がれないことも多いですが、特に仕事がないときには率先して自分自身が定時上がりをすることを心がけた方がよいでしょう。
残業可能時間を意識させる
みなし残業制度を本格的に導入するにあたっては、残業可能な時間を社員が意識する必要性があります。
なぜなら、残業可能な時間を社員が意識しなければそもそもペース配分が出来ないためです。
例えば残業可能な上限が支払予定時間のマックスである20時間であれば、20時間以内で収まるように仕事をするように指導することが大切です。
「今月は繁忙期でもないし、極力定時退社しよう。ただ、月末は締め切りなどがあり忙しいので、月末に残業をみなし残業時間上限の20時間くらいは残業しよう」と社員に意識を持ってもらうことが大切です。
就業規則を変更する手順と注意点
就業規則変更を行うにあたっては、以下の手順を踏みます。
・経営者と弁護士で就業規則について打ち合わせ
・改定案を弁護士サイドで何案か考える
・案を書きまとめる
・経営者に確認を取る
・案の内容をベースに就業規則草案作成
・従前の就業規則と現在の就業規則改定部分を確認
・経営者に説明
・経営者から労働者代表に説明
・OKなら労働者代表から同意書を書いてもらう
・労基署に同意書と新しい就業規則を2部印刷して押印を貰い1部を持ち帰る
・経営者に会社保管分を渡す
・周知は就業規則配布または、パソコンの共有フォルダにアップロードする
それぞれについて解説します。
経営者と弁護士で就業規則について打ち合わせ
経営者サイドの思う就業規則改定の内容をヒアリングして、どのような就業規則にしたいのかを聞き出します。
特に注意点としては経営者の理想は聞き出しつつも「現実的にはそれは厳しい」という風に法律的に変更できない点があれば経営者に真摯に伝えることが重要です。
なぜなら、就業規則上に定めたルールが法令に違反している場合は無効となり、せっかく変更した就業規則が無効化してしまうためです。
例えば経営者としては残業代についてみなし残業時間をオーバーした分を払いたくないと思っていても支払う必要性があります。
ただ、会社側が納得して残業代を支払える状態にするため、労務管理の徹底などで出来るだけ余分な残業代を支払わないように運営していく助言をすることが重要です。
改定案を弁護士サイドで何案か考える
就業規則の改定案を弁護士サイドで何案が考えましょう。
基本的に一個の改定事項に対して3案ほどあれば良いです。
固定残業へ本格的に移行したいという場合、残業代支払いの上限額について記載する他にも、これを機に見直しておいた方が良いという事項があります。
本文中で解説した事項と被る部分もありますが、以下の点です。
・基本給を最低賃金ベースにし、残り部分を手当へ移行
・管理職の賞与規定について新設
・管理職の給与規定について新設
・管理職規定の新設
・管理職登用基準の新設
就業規則改定作業を行うにあたって残業代だけを見直すのではなく、思い切って裁判移行時に戦える内容の就業規則に変えてみようという提案をしてみましょう。
案を書きまとめる
案を書きまとめて見やすい状態にして経営者に提出します。
従前の就業規則と対比をし、見やすい状態にするためにもワードで比較状態を作って提出しましょう。
経営者に確認を取る
経営者に書きまとめた案を伝え、確認を取りましょう。
文章を見せると共に、変更箇所と変更した意味や理由について確認を取ります。
就業規則改定で意外に多いのが、経営者自身が変更点を詳しく理解していない点です。
労働基準監督署は警察署に比べて取り調べが緩く、またいきなり逮捕するケースが少ないため脅威にはならなくとも、民事訴訟が起こった時に経営者自身が自社の就業規則を細かく理解していない場合には不用意な言動を取ってしまうことで形勢が不利になることがあります。
就業規則の内容をしっかりと理解していないと証人尋問で矛盾した答え方をすることに意図せずなることが多々あります。
矛盾したことをあまりに言いすぎると裁判官は「この社長さんの言い分は信用できないな」と感じて証言を採用してくれない可能性があります。
必ず変更点と変更後に運用で変わる部分については理解できるように説明責任を果たしましょう。
案の内容をベースに就業規則草案作成
経営者の承認がおりたら、案の内容をベースに就業規則の草案を作成しましょう。
大量の事務処理作業になるため法律事務所の事務員さんに配慮して仕事を振りましょう。
従前の就業規則と現在の就業規則改定部分を確認
従前の就業規則と現在の就業規則改定部分を確認し、就業規則のどこを変更したのかを分かるような別紙を添付するようにしましょう。
労基署に提出する際に必要になる資料のため先に準備しておきましょう。
経営者に説明
弁護士から経営者に改定部分を比較しながら最後の説明を行います。
経営者から労働者代表に説明
経営者が納得したら経営者から労働者代表に対して就業規則の変更内容について説明し、同意を求めます。
もしも経営者だけで説明が厳しい、不安だという場合には弁護士に同伴依頼してOKです。
同意さえ取れたら形式は問われません。
ただ、多くの企業では労働者代表が反対意見を言ってくることは少ないです。
OKなら労働者代表から同意書を書いてもらう
就業規則の変更に労働者代表が同意してくれたら、同意書を書いてもらうようにしましょう。
労基署に就業規則の変更を届け出る場合、必ず同意書が必要となります。
仮に賛同でなく反対意見であったとしても変更は受け付けられますが、出来れば賛同してもらった方が良いです。
労基署に同意書と新しい就業規則を2部印刷して押印を貰い1部を持ち帰る
労基署に同意書と新しい就業規則2部、就業規則の変更箇所について記載された用紙を提出します。
注意点としては必ず就業規則本体を2部用意することです。
1部は労基署が受け取り、1部は会社保管用となります。
弁護士が提出しても、経営者本人が提出しても問題ありません。
基本的に労働基準監督官が変更した就業規則の中身を確認することはなく、5分以内で提出は終了します。
経営者に会社保管分を渡す
経営者に会社保管分を渡しましょう。経営者本人が外出のついでに労基署によって届け出る場合はそのまま持って帰ってもらえば良いです。
周知は就業規則配布または、パソコンの共有フォルダにアップロードする
就業規則の周知を行う方法を決めましょう。
残業代を清算している場合、大きな騒ぎになることは少ないため、新しくできた就業規則をコピーし製本して社員に渡せば問題ありません。
時効を待つ場合は変更したということそのもので大きく騒がれることを避けるため、パソコンの共有フォルダにアップしておきましょう。
これで就業規則の改変作業と、周知が終わったため新しい就業規則が機能する状態になります。
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まとめ
今回は、「固定残業時間制度へのスムーズな移行」「管理職制(等級制度)を導入」「労働時間管理と上司による部下の業務の把握(勤怠管理と業務分掌把握)」について解説させて頂きました。
特に着目して頂きたい点として、せっかく就業規則改定というチャンスがあるのですから、これを機に他の部分の見直しも進めてみましょうという点です。
残業代の記載や管理職規定策定の他、基本給の項目や概念などを柔軟性のある形に変更しておきましょう。
また、社員が出来るだけ残業しなくて良いように運営体制の見直しも図りましょう。
従業規則を見直し、残業などに関しても許可制に移行することで強い企業体質を作りましょう。