近年、我が国では外国人労働者の受入政策が進められています。
特に、「高度人材」と呼ばれる専門知識があり能力の高い外国籍人材に対しては、高度人材ポイント制という制度を設けて出入国在留管理上での優遇措置を講ずることで、日本国内で働きやすい環境が整えられています。
現在、世界中で優秀な人材の獲得競争が盛んです。
我が国においても、優秀な外国人材を活用してみたいと考える企業は多いでしょう。
この記事では、高度人材ポイント制や在留資格である高度専門職ビザの申請や更新の方法などについて詳しく解説していきますので、高度人材の有効活用のために参考にしてください。
高度人材とは
高度人材とは、専門性の高い知識や技術を有している外国籍の人材を指します。
内閣府では、高度人材を、『「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」であり、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」』(高度人材受入推進会議「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」)と定義づけています。
端的に表現すれば、高度人材は、優れた知識と技術によって我が国の経済や学術研究の発展に寄与することを期待されている外国籍の人材といえるでしょう。
政府は、高度人材の受入推進を成長戦略の重要な一つとしています。
そして、高度人材である外国籍の人が日本を働く場所として選んでくれるように、2015年には高度専門職1号と高度専門職2号という在留資格を創設し、数多くの優遇措置を設けることで高度人材が日本国内で働きやすくしています。
この「高度専門職」という在留資格は、法務省令で定められた評価項目と配点に基づき、一定以上のポイントを獲得した者に付与されます。
これが高度人材ポイント制で、高度人材受入推進政策の中心になっています。
高度人材の分類
高度人材の在留資格である「高度専門職」は、国内で行う活動に対応して3つの分類がされています。
この項目では、高度専門職の3分類と、高度専門職1号と2号の違いについてそれぞれ解説します。
高度学術研究活動「高度専門職1号(イ)」
日本の公私の機関との契約に基づいて行う研究、研究の指導または教育をする活動がこれにあたります。
具体的には、大学教授や民間企業の研究所の研究者などが該当します。
これらの研究・教育活動とあわせて、自ら起業を行い経営者となることも可能です。
高度専門・技術活動「高度専門職1号(ロ)」
日本の公私の機関との契約に基づいて行う自然科学、または人文科学の分野に属する知識、または技術を要する業務に従事する活動を行うものです。
たとえば、機械等の技術者やITエンジニア、マーケティングの専門家などが含まれます。
この分類においても、関連する事業で起業して経営をすることが可能です。
高度経営・管理活動「高度専門職1号(ハ)」
日本の公私の機関において事業の経営を行いまたは管理に従事する活動に対応します。
対象者は、会社の経営者や社内で管理的業務を行う者、弁護士法人や監査法人を経営・管理する者などです。
この分類も他と同様に、関連する事業について自ら起業して経営者となることができます。
高度専門職1号と2号の違い
高度専門職1号と2号の違いは、要件と優遇措置の内容にあります。
高度専門職2号の在留資格に変更するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 行おうとする活動が高度専門職2号の活動に該当すること
- 高度専門職1号の在留資格をもって3年以上活動していたこと
- 高度人材ポイント制のポイントが70点以上あること
- 素行が善良であること
- 在留することが日本の利益に合致すると認められたこと
- 日本で行おうとする活動が相当でないと認められた場合でないこと
これらの要件をすべて満たした上で申請を行い、高度専門職2号への変更が認められると、次のような優遇措置を受けることができます。
- 在留期間が高度専門職2号では無期限になります。
- 活動制限が大幅に緩和され、高度専門職1号の活動内容とあわせて、「教授」「芸術」「宗教」「報道」「法律・会計業務」「医療」「教育」「技術・人文知識・国際業務」「興行」「技能」の在留資格にかかる活動も可能になるため、ほぼすべての活動を行うことができるようになります。
以上のように、高度専門職2号は、高度専門職1号に比べて要件が厳しい反面、優遇措置が拡張されています。
高度人材ポイント制とは
政府は高度人材の受入れをさらに推し進めるため、平成24年5月7日からポイント制を用いて出入国在留管理上で優遇措置を設ける制度を導入しました。
この制度は、高度人材の活動を内容に応じて「高度学術研究活動」、「高度専門・技術活動」、「高度経営・管理活動」の3種類に分け、それぞれに所定の項目ごとのポイントを設定し、ポイントの合計が70点以上となった場合に出入国在留管理上の優遇措置を行うというものであり、高度人材ポイント制と呼ばれています。
高度人材ポイント制でポイントが付与される項目は、①学歴、②職歴、③年収、④年齢、⑤ボーナスポイントの5項目となっていますので、以下でそれぞれについて解説します。
なお、詳細なポイントの計算表については、出入国在留管理庁のウェブサイトからダウンロードすることができます。
(資料:出入国在留管理庁「ポイント計算表」)
学歴
博士号や修士号の取得者や、大学を卒業したものまたはこれと同等以上の教育を受けた者にポイントが与えられます。
学歴ポイントは最終学歴で計算します。
例えば、同一分野での博士号と修士号の取得者は、博士号のみがポイントの対象になります。
対象 | 高度学術研究活動 | 高度専門・技術活動 | 高度経営・管理活動 |
博士号取得者(専門職学位を除く) | 30点 | 30点 | - |
修士号または専門職学位の取得者 | 20点 | 20点 | - |
博士・修士・専門職学位の取得者 | - | - | 20点 |
経営管理に関する専門職学位(MBA、MOT)の保有者 | - | 25点 | 25点 |
大学を卒業、またはこれと同等以上の教育を受けた者(博士号・修士号取得者は除く) | 10点 | 10点 | 10点 |
複数の分野で、博士・修士・専門職学位を複数有する者 | 5点 | 5点 | 5点 |
短期大学や高等専門学校等の扱いについて
学歴ポイントの「大学」には短期大学も含まれます。
高等専門学校を卒業した者や、専修学校の専門課程を卒業した者の中で「高度専門士」の称号が付与された者については、「大学と同等以上の教育を受けた者」として扱われます。
ただし、専修学校の専門課程を卒業して「専門士」の称号が与えられた者はポイントの対象になりません。
職歴
3年以上の実務経験を有する者に対して、期間に応じた職歴ポイントが付与されます。
職歴 | 高度学術研究活動 | 高度専門・技術活動 | 高度経営・管理活動 |
10年以上 | 15点 | 20点 | 25点 |
7年以上10年未満 | 15点 | 15点 | 20点 |
5年以上7年未満 | 10点 | 10点 | 15点 |
3年以上5年未満 | 5点 | 5点 | 10点 |
なお、対象となる実務経験は以下のようになっています。
分類 | 対象 |
高度学術研究活動 | 従事しようとする研究、研究の指導または教育に係る実務経験 |
高度専門・技術活動 | 従事しようとする業務に係る実務経験 |
高度経営・管理活動 | 事業の経営または管理に係る実務経験 |
年収
一定以上の年収がある者に対してポイントが付与されます。
「高度学術研究活動」、「高度専門・技術活動」の分野で在留資格を取得しようとする場合は、年齢と年収に応じてポイントが設定されています。
高度学術研究活動または高度専門・技術活動 | ||||
年収 | 年齢 | |||
30歳未満 | 30~34歳 | 35~39歳 | 40歳以上 | |
1,000万円以上 | 40点 | 40点 | 40点 | 40点 |
900万円以上~1,000万円未満 | 35点 | 35点 | 35点 | 35点 |
800万円以上~900万円未満 | 30点 | 30点 | 30点 | 30点 |
700万円以上~800万円未満 | 25点 | 25点 | 25点 | - |
600万円以上~700万円未満 | 20点 | 20点 | 20点 | - |
500万円以上~600万円未満 | 15点 | 15点 | - | - |
400万円以上~500万円未満 | 10点 | - | - | - |
「高度経営・管理活動」については、年齢に関係なく年収のみに応じたポイント設定になっています。
高度経営・管理活動 | |
年収 | 点数 |
3,000万円以上 | 50点 |
2,500万円以上~3,000万円未満 | 40点 |
2,000万円以上~2,500万円未満 | 30点 |
1,500万円以上~2,000万円未満 | 20点 |
1,000万円以上~1,500万円未満 | 10点 |
年齢による年収ポイントの変化に注意
例えば、「高度学術研究活動」と「高度専門・技術活動」では、30歳未満の者が400万円以上500万円未満の年収だった場合に、10点のポイントが設定されています。
しかし、年齢が30歳以上になると500万円未満の年収ではポイントを得られなくなりますので、年収ポイントを考える際には年齢についても注意する必要があります。
最低年収基準
「高度専門・技術活動」と「高度経営・管理活動」については、最低年収基準が定められています。
これらの資格では、他のポイントの合計が70点以上となっていても、年収が300万円以上でない場合は高度人材として認められません。
年収に含まれるのはどのような名目の支給か
年収に含まれる支給の名目としては、基本給・勤勉手当・調整手当等があり、賞与も年収に含まれます。
一方で、通勤手当・扶養手当・住宅手当等の実費弁償的な性格を有するものは、課税対象となるものを除いて年収に含まれません。
超過勤務手当については、どの程度の残業が生じるか不確かであるため、年収には含めることができません。
資格取得後に年収ポイントが減少した場合
入国後に年収が低下することで年収ポイントが減少し、結果としてポイントの合計が70点を下回る可能性があります。
この場合には、ポイントが70点を下回ってもただちに高度人材としての在留資格を失うことにはなりませんが、在留期間の更新時点においては70点のポイントを取得していないと在留期間の更新が許可されませんので注意が必要です。
年齢
年齢ポイントは、「高度学術研究活動」と「高度専門・技術活動」の分野にのみ設定されています。
「高度経営・管理活動」については年齢ポイントがありません。
高度学術研究活動または高度専門・技術活動 | |
年齢 | 点数 |
30歳未満 | 15点 |
30歳以上~34歳以下 | 10点 |
35歳以上~39歳以下 | 5点 |
このように、若年ほど高いポイント設定になっています。
年齢ポイントが減少した場合に注意
年齢ポイントについては、高度専門職の在留資格取得時から年齢を重ねることでポイントが減少する場合に注意が必要です。
年齢ポイントが減少した結果として70点のポイントに満たなくなっても、ただちに在留資格は失いませんが、在留期間の更新時点では合計70点のポイントを獲得している必要があります。
ボーナスポイント
高度人材ポイント制では、数多くのボーナスポイント項目が用意されています。
ここでそれぞれの概要を確認していきましょう。
研究実績
「高度学術研究活動」と「高度専門・技術活動」の分野には、研究実績のボーナスポイントが設けられています。
なお、「高度学術研究活動」については、2つ以上に該当する場合は25点となります。
研究実績 | 高度学術研究活動 | 高度専門・技術活動 |
発明者として特許を受けた発明が1件以上あること | 20点(複数該当で25点) | 15点 |
外国政府からの補助金・競争的資金等を受けた研究に3回以上従事したこと | 20点(複数該当で25点) | 15点 |
学術論文データベース登載の学術雑誌に掲載された責任著者としての論文が3本以上あること | 20点(複数該当で25点) | 15点 |
その他法務大臣が認める研究実績があること | 20点(複数該当で25点) | 15点 |
地位
「高度経営・管理活動」のみ、地位に対してポイントが設定されています。
高度経営・管理活動 | |
地位 | 点数 |
代表取締役、代表執行役、代表権のある業務執行社員 | 10点 |
取締役、執行役、業務執行社員 | 5点 |
職務に関連する日本の国家資格
「高度専門・技術活動」では、職務に関連する日本の国家資格に対してボーナスポイントがあります。
高度専門・技術活動 | |
対象 | 点数 |
職務に関連する日本の業務独占資格または名称独占資格を保有している場合、または、IT告示に定める試験に合格し、もしくは資格を保有している場合 | 1つ:5点 |
複数:10点 |
業務独占資格とは、資格を持たないものが業務に携わることを禁止されている資格のことで、具体的には弁護士や医師などがあります。
名称独占資格とは、資格がなければ名称を使用することが禁止されている資格で、技術士などが含まれます。
IT告示に定める試験とは、ITストラテジスト試験や応用情報技術者試験などの日本の情報処理技術者試験の他に、中国、韓国、台湾、シンガポール等で実施されている試験が含まれています。
(資料:出入国在留管理庁「IT告示(出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令の技術・人文知識・国際業務の在留資格に係る基準の特例を定める件)」)
契約機関または活動機関
「高度学術研究活動」・「高度専門・技術活動」の契約機関、「高度経営・管理活動」の活動機関が所定の要件を満たすとポイントが付与されます。
対象 | 点数 |
イノベーション促進支援措置を受けている機関(中小企業基本法に規定する中小企業者以外) | 10点 |
イノベーション促進支援措置を受けている中小企業基本法に規定する中小企業者 | 20点 |
国家戦略特別区域高度人材外国人受入促進事業の対象企業として支援を受けている機関 | 10点 |
(資料:出入国在留管理庁「イノベーション促進支援措置一覧」)
(資料:出入国在留管理庁「国家戦略特別区域高度人材外国人受入促進事業」)
試験研究費等比率3%超の中小企業で就労
売上高に対する試験研究費および開発費の合計金額が3%を超えている中小企業で就労する場合は、5点が付与されます。
職務に関連する外国の資格・表彰等
職務に関連する外国の資格や表彰を有していると、5点が加算されます。
具体的な資格や表彰としては、国際弁護士、米国公認会計士等の資格や、グッドデザイン賞(大賞・金賞)等の表彰が挙げられています。
(資料:出入国在留管理庁「外国の資格・表彰等一覧」)
日本の高等教育機関における学位の取得
日本の大学を卒業している場合、または、大学院の課程を修了している場合は、10点のポイントを得られます。
日本語の能力に応じたポイント
日本語能力試験N1合格相当、または日本語専攻で外国の大学を卒業した者には、15点が付与されます。
これに該当しない場合で、日本語能力試験N2合格相当の者には、10点が付与されます。
ただし、日本の大学を卒業、または大学院を修了している場合は、日本語能力試験N2合格相当であってもポイントを得られません。
日本語能力試験以外では、例えば、BJTビジネス日本語能力テストで480点以上の得点を得た者については、N1合格と同等以上の日本語能力を有するとされ、同試験で400点以上の得点をした者はN2合格と同等以上の日本語能力を有するとされてそれぞれ加点されます。
(資料:出入国在留管理庁「日本語能力一覧」)
成長分野における先端的事業に従事
「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」や「Beyond 5G研究開発促進事業」、「未来社会創造事業」などの、各省が関与する成長分野における先端的事業に従事する者に対しては、10点が付与されます。
(資料:出入国在留管理庁「将来において成長発展が期待される分野の先端的な事業一覧」)
法務大臣が告示で定める大学を卒業した者
法務大臣が告示で定めた大学を卒業していると、10点が与えられます。
なお、この項目のポイントは、日本の大学を卒業している場合、または、大学院の課程を修了している場合のポイントと重複して加算することができます。
以下のいずれかに該当する大学を卒業していること | 得点 |
①下記の大学ランキングの2つ以上で300位以内の外国の大学、またはいずれか1つ以上にランクしている日本の大学 ・QS・ワールド・ユニバーシティ・ランキングス(クアクアレリ・シモンズ社(英国)) ・THE・ワールド・ユニバーシティ・ランキングス(タイムズ社(英国)) ・アカデミック・ランキング・オブ・ワールド・ユニバーシティズ(上海交通大学(中国)) |
10点 |
②文部科学省実施のスーパーグローバル大学創成支援事業(トップ型およびグローバル化牽引型)において、補助金の交付を受けている大学 | |
③外務省実施のイノベーティブ・アジア事業において、パートナー校の指定を受けている大学 |
具体的な対象大学は、出入国在留管理庁等の資料により確認することができます。
(資料:出入国在留管理庁「世界大学ランキングに基づき加点対象となる大学」)
(資料:文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援概要図」)
(資料:出入国在留管理庁「外務省が実施するイノベーティブ・アジア事業において「パートナー校」として指定を受けている大学」)
法務大臣が告示で定める研修を修了した者
JICAが外務省実施のイノベーティブ・アジア事業の一環として実施している研修を修了した者には、5点が加算されます。
ただし、研修期間は1年以上であることが必要です。
JICAの研修は日本の大学または大学院の授業を利用して行われる場合がありますが、この場合であっても、日本の大学を卒業、または大学院の課程を修了している場合のポイントと重複加算することはできません。
1億円以上の投資を行っている者
「高度経営・管理活動」のみが対象になりますが、日本で行う事業に1億円以上を投資している者については、5点のポイントが与えられます。
投資運用業等に係る業務に従事している者
金融商品取引法に規定されている、第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業に係る業務に従事している場合には、10点が付与されます。
このボーナス項目は、「高度専門・技術活動」および「高度経営・管理活動」のみが対象となります。
高度人材ポイント制による優遇措置
高度人材ポイント制のもとで高度人材として認められると、数々の優遇措置を受けることができます。
ここではどのような優遇措置があるのか解説していきます。
複合的な在留活動が可能になる
一般的な在留資格の場合、活動の範囲はそれぞれの在留資格に応じたものに制限されます。
しかし、高度専門職資格を取得すると、例えば、研究・教育活動を行う傍らで関連する事業を起業して経営者となるなど、在留資格の制限を超えた複合的な活動を行えるようになります。
5年間の在留期間が付与
他の在留資格では、3月、6月、1年、3年等の在留期間がそれぞれの資格に応じて定められており、その中からいずれかの在留期間が付与されます。
これに対し、高度専門職では法律上で最長となる在留期間5年が一律に付与されます。
最短1年で永住権取得が可能
通常の場合、永住権を取得するためには原則として引き続き10年以上の日本在留が求められます。
しかし、高度専門職の資格を有している場合は、高度人材外国人として3年以上継続して日本に在留することで永住権を取得することが可能です。
さらに、高度人材ポイント制のポイントが合計80点以上になる者は、1年以上継続して在留すれば永住権を取得できます
配偶者も日本で働ける
配偶者としての在留資格を有する外国人が、「教育」や「技術・人文知識・国際業務」等の在留資格にあたる活動を行うためには、学歴・職歴・報酬といった要件を満たして、これらの在留資格を取得しなければなりません。
しかし、高度専門職の在留資格を取得した高度外国人材の配偶者ならば、学歴や職歴などの要件を満たすことができなくても、「教育」や「技術・人文知識・国際業務」などに該当する活動を行うことができます。
一定の要件を満たせば親の帯同が可能
現在の制度では、就労目的の在留資格で在留している外国人が日本国内に親を受け入れることはできません。
これに対し、高度専門職では、①高度外国人材または配偶者の7歳未満の子(養子を含む)を養育する場合、②高度外国人材の妊娠中の配偶者または妊娠中の高度外国人材本人の介助や家事等の支援を行う場合のいずれかにおいて、一定の要件を満たすことで親を日本国内に入国・在留させることができます。
主な要件としては下記のようなものがあります。
- 高度人材の世帯年収(本人と配偶者の年収を合算したもの)が800万円以上になること
- 高度人材と同居すること
- 高度人材または配偶者の、どちらか一方の親のみであること
一定の要件を満たせば家事使用人の帯同も可能
高度外国人材は一定の要件を満たせば家事使用人を帯同することが可能です。
具体的な要件は、①入国帯同型、②家庭事情型、③金融人材型の3分類に応じて定められています。
入国帯同型(高度外国人材と共にまたは後から家事使用人が入国する場合)の要件
- 雇用主である高度外国人材の世帯年収が1,000万円以上あること
- 帯同する家事使用人が1名のみであること
- 家事使用人の報酬が月額20万円以上であること
- 高度外国人材が使用する言語で日常会話ができること
- 18歳以上であること
- 高度外国人材と共に入国する場合は、家事使用人が入国前に1年以上その高度外国人材に雇用されていた者であること
- 高度外国人材の後から家事使用人が入国する場合は、家事使用人が入国前に1年以上その高度外国人材に雇用されており、かつ、高度外国人材が入国した後も引き続きその高度外国人材本人または高度外国人材が入国前に同居していた親族に雇用されている者であること
- 高度外国人材が出国する場合は共に出国することが予定されていること
家庭事情型(高度外国人材に13歳未満の子がいる場合等)の要件
- 雇用主である高度外国人材の世帯年収が1,000万円以上あること
- 帯同する家事使用人が1名のみであること
- 家事使用人の報酬が月額20万円以上であること
- 高度外国人材が使用する言語で日常会話ができること
- 18歳以上であること
- 申請時点において、高度外国人材に13歳未満の子または病気等で日常の家事に従事することができない配偶者があること
金融人材型(投資運用業等に従事する高度外国人材に雇用される場合)の要件
- 高度外国人材が金融商品取引法に規定される第二種金融商品取引業、投資助言・代理業、投資運用業に係る業務に従事していること
- 雇用主である高度外国人材の世帯年収が1,000万円以上あること
- 高度外国人材の世帯年収が1,000万円以上3,000万円未満の場合は、帯同する家事使用人が1名のみであること
- 高度外国人材の世帯年収が3,000万円以上の場合は、帯同する家事使用人が2名までであること
- 家事使用人の報酬が月額20万円以上であること
- 高度外国人材が使用する言語で日常会話ができること
- 18歳以上であること
入国・在留の手続が優先的に処理される
高度外国人材の入国・在留の審査は優先処理されます。
具体的な処理期間の目処は次のとおりになっています。
- 入国事前審査に係る申請は、申請受理から10日以内
- 在留審査に係る申請は、申請受理から5日以内
高度専門職2号の優遇措置
高度専門職2号では、在留期間が「無期限」となっています。
また、高度専門職1号の活動にあわせて、就労できる在留資格で認められている活動のほぼ全てについて行うことが可能です。
その他、最短1年での永住権取得、配偶者の就労、家事使用人の帯同、親の帯同については、高度専門職1号の場合と同様に優遇措置を受けることができます。
高度人材にかかる「高度専門職」ビザの申請方法
高度人材が高度専門職ビザを申請する方法は、新規に申請する場合、更新する場合、既存の在留資格から切り替える場合、転職する場合でそれぞれ異なります。
ここでそれぞれの手続きについて見ていきましょう。
在留資格を新規に申請する場合
在留資格を新規に申請する場合の手続きの流れは下記のようになっています。
①地方出入国在留管理局の窓口で申請を行う
高度専門職1号(イ・ロ・ハ)のいずれかについて、地方出入国在留管理局の窓口で在留資格認定証明書交付申請を行います。
②出入国在留管理庁の審査
出入国在留管理庁が上陸条件への適合性について審査を行います。
この時にポイントの計算も行われます。
③在留資格認定証明書の交付
審査の結果、在留資格に該当し上陸条件に適合していると認められた場合は、在留資格認定証明書が交付されます。
④在外公館での査証(ビザ)申請
入国を希望する方の自国にある日本国大使館または総領事館で、在留資格認定証明書を提示して査証申請を行います。
ビザが発給されると、旅券(パスポート)にビザが貼付されます。
⑤上陸審査手続き
日本の空港または海港で、在留資格認定証明書とビザが貼付されたパスポートを提示して上陸審査手続きを行います。
上陸が許可されると、上陸許可の証印がパスポートに貼付され、在留カードが交付されます。
在留期間の更新または在留資格の切り替えの場合
在留期間を更新する場合、または他の在留資格から高度専門職に切り替える場合の手続きです。
①地方出入国在留管理局の窓口で申請を行う
在留資格を更新する場合は在留期間更新許可申請を行います。
在留資格を高度専門職に切り替える場合は在留資格変更許可申請を行います。
②出入国在留管理庁の審査
出入国在留管理庁が高度人材の該当性などについて審査を行います。
審査のポイントは以下のとおりです。
- 行おうとする活動が高度人材としての活動であること
- 70点以上のポイントを取得していること
- 良好な在留状況であること
③在留カードの交付
審査が完了し、更新または切り替えが認められると、新しい在留カードが交付されます。
専門職1号の方が転職する場合
高度専門職1号を取得すると、所属機関の名称と所在地が記載された指定書がパスポートに貼付されます。
高度専門職1号の方が転職する場合は、指定書に記載された就労する機関が変わることになるため、転職先の機関で働き始める前に「在留資格変更許可申請」を行う必要があります。
高度人材を必要とする社会経済的背景
高度人材が必要になる社会経済的な背景には、人口減少や少子高齢化の進行、第4次産業革命の進展といった要因が挙げられるでしょう。
我が国では、少子高齢化が急速に進行している影響で生産年齢人口が減少しています。
生産年齢人口は、2020年の7,509万人から2050年には5,275万人になることが見込まれていますが、2030年の時点でも6,875万人と、2020年比で634万人もの減少が予測されています。
(参照:内閣府「令和4年版高齢社会白書」)
他方、我が国には世界中で進展するIoT、ビッグデータ、AIといった分野を活用したいわゆる第4次産業革命の潮流に適応していくという課題も存在しています。
このような環境下で日本が経済成長を続けていくためには、イノベーションの創出に貢献し、経済の生産性を加速させるような優秀な外国人材の活用が重要になります。
政府はこのような認識から、高度な知識・技能を有する外国人の受入れ推進と外国人が円滑に共生できる社会をつくることを目標として、高度人材ポイント制等の政策を導入して高度外国人材の受入れ・定着を積極的に進めています。
その結果、高度人材ポイント制が導入されてから5年後の2017年6月には約8,500人が
高度人材の認定を受け、さらに5年後の2022年6月には約34,700人が認定を受けています。
(参照:出入国在留管理庁「高度人材ポイント制の認定件数の推移」)
日本における高度外国人材の受入れは、今後も拡大していくことが予想されます。
高度人材を採用するメリット
高度人材を採用するメリットとしては次の点が挙げられます。
- 高度な知識・能力
- 日本人にない視点が得られる
- 若さと語学力
- 長期雇用の可能性
以下でそれぞれについて簡単に解説します。
①高度な知識・能力
高度人材は、優れた学歴や実務経験に裏付けられた高度な知識や能力を有しています。
専門性の高い即戦力の人材として、高度人材は企業を成長させるために役立つと考えられます。
②日本人にない視点が得られる
高度人材は日本とは異なる文化のバックグラウンドを有しているため、日本人にはない視点により新たなビジネスの機会を生み出すことが期待できます。
また、近年では企業がグローバル化に対応することが重要になっていますが、高度人材はこの点でも独自の視点で活躍することが考えられます。
③若さと語学力
高度人材ポイント制のもとでは、39歳以下の者に対して若年ほど多いポイントが配分されています。
このため、若くして高度な知識・能力を備えた人材を獲得できる可能性があります。
また、高い日本語力を有していることや、日本の大学等を卒業したことに対してポイントが与えられることから、語学力の面でも優秀な人材であることが期待できます。
④長期雇用の可能性
高度専門職の在留期間は5年または無期限と長くなっており、永住権の取得も優遇されているため、他の在留資格に比べて長期間の雇用が可能になる利点もあります。
まとめ
この記事では、高度人材について、ポイント制の概要や在留資格である「高度専門職」ビザの申請方法などについて解説してきました。
高度人材として高度専門職の在留資格を取得するためには、所定のポイントを取得した上で手続きを行う必要がありました。
高度人材ポイント制の項目は細かく規定されており、入国・在留の必要書類も多く手続きも複雑になっていますので、高度人材を円滑に受け入れて行くためには専門家を活用することをおすすめします。