入国管理法在留資格(技人国=技術・人文科学・国際業務)の悪用問題と行政処分
「技・人・国のビザで入ってきた外国人に単純労働をお願いしたいんだけど、ダメなのかな」
「本当にちょっとした簡単な業務なんだけど、やってもらえたらありがたいな」
ほんの小さな出来心で、本来業務以外の仕事を技・人・国のビザで海外から来てくれた外国人の従業員に単純労働を依頼すると、うっかり行政処分を受ける可能性があります。
どの部署も人手不足で、ちょっとだけ現場の仕事を手伝ってほしいという場合や、一時的に現場に応援に出てもらうなど、助けてほしいという気持ちからついやってしまいがちですが、技・人・国のビザで来ているにも関わらずうっかり外国人に現場労働をさせると日本の正社員とは異なり、大事に発展する可能性があります。
この文章を読めば、どのようなケースで問題になりやすいのかと、回避する方法が理解できます。
企業の人事担当者で初めて外国人の方を受け入れる方や、これから外国人労働を受け入れようと考えている人は、読まないとうっかり違法行為をしてしまう可能性があります。
最後まで読んでいってくださいね。
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技・人・国はそもそも高度な仕事が出来る労働者が定義
在留資格であり、「技術・人文知識・国際業務」、通称「技・人・国」で外国人を雇用する場合は、日本でいうところのブルーカラーの肉体労働ではなく、事務処理的な机に座って仕事をするホワイトカラーを想定しています。
・技術
・人文知識
・国際業務
それぞれについて解説させていただきます。
技術
技術は、理系などの分野において、知識を必要とする仕事に就くことになります。
簡単にいえばエンジニアですね。単純に機械などのエンジニアだけではなく、例えば、
・プログラマー
・システムエンジニア
といったコンピューター関連のITエンジニア職も守備範囲にはいっています。
大手の製造業やIT系企業では外国人の優秀なエンジニアを雇用している企業もあります。
但し、大卒でない場合は10年以上の実務経験が必須であり、技術に仕事に就くことはできません。
人文知識
人文知識では日本では文系分野にあたる知識を保有している外国人が対象となり、外国人で大卒以上でない場合は、10年以上の実務経験が必要となってきます。
人文知識は基本的には人事や経理、総務といった事務仕事、営業職といったホワイトカラーの仕事を担当することになります。
国際業務
国際業務も、技術・人文知識と同様に、大卒でない場合は、10年以上の実務経験が必要となってきます。
国際業務の仕事内容としては、外国人の持っている特性を生かした仕事内容が多くなります。
日本人でも仮に中国などに行って仕事をする場合、日本語の講師などで働くことがあるのですが、それに近いです。
国際業務の仕事は、語学の教師、通訳や翻訳といった母国語を活かしたものとなっています。
基本的にホワイトカラー業務をするために、国際業務の在留資格はあります。
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技能資格とは?「技・人・国」とは完全に異なる資格
「技・人・国」の資格はあくまでもホワイトカラー、民間企業の大卒以上の社員が行うような仕事である机に座ってする仕事であるのに対して、技能資格という在留資格は「技・人・国」とは全く異なります。
技能の在留資格でいくと、パイロット、料理人、建築家などは、ホワイトカラー職種ではなく技能ビザで就労することになります。
うっかりとこの点を間違えて採用すると、本来は日本で働く権利のない仕事に外国人を雇用することになってしまいます。
「技・人・国」で入社している外国人社員にうっかりとやってしまうこと
例えば「技・人・国」の就労ビザで、会社に入社した外国人社員に対して、本来業務以外をうっかり振ってしまうと不法就労助長罪に問われる可能性があります。
技術の分野で雇用しているにも関わらず、製造現場で人手不足状態に陥ってしまい、ホワイトカラーとして採用しているのに、短い期間だからといって現場応援に出してしまうといったケースです。
自動車業界などでは慣例的に、現場が人手不足に陥ってしまい、現業職の契約社員の採用が難しいという状態に陥った時、現場応援に人を出すことがよくあります。
その際は大卒でホワイトカラーだろうとなんだろうと、現場に応援へ行かせて製造の仕事をすることになります。
こうした他の日本人の正社員もやっていることを、外国人にやってしまうと問題に発展することがあります。
他の正社員も現場応援はやっているからと、外国人に対して現場応援規定を適用することは難しいです。
本来、図面を書く設計の仕事のような技術の仕事をしてもらうために日本に来てくれている外国人に対して製造現場の仕事のような、単純労働力の仕事に近い仕事をさせることは違法行為となります。
日本人の正社員もやっていることだから、と安易に外国人に適用すると重大な違法行為となってしまいます。
原則として外国人を雇い、売春行為をさせることは違法行為
スナックや、風俗関係のお店などに行かれる方もいらっしゃいますし、それ自体は悪いことではありません。
しかし、例えばフィリピンパブのようなお店で、独身のフィリピン人女性などが働いていると不法就労となります。
風俗関係の仕事に就労することは原則、就労ビザでは不可能なためです。
多くのフィリピンパブのような夜のお店で働いている女性外国人従業員は日本人の男性と結婚して永住権を持っており合法で就労していますが、原則として風俗店などで就労ビザで働くことはできません。
日本人と結婚すると永住権が取得できて、日本人と同じ要領で働くことが出来るようになります。
何気なく営業している夜のお店も、法律的な観点から見ると結構、危険な部分があったり、抜け道があったりするということですね。
外国人を本来業務とは別の仕事に配置した場合、罰則がある
外国人を許可されたビザ以外の種類の仕事に就労させるなど、無資格にも関わらず仕事をさせてしまった場合には法律により罰則があります。
行政処分としては、外国人労働者に対して退去強制があります。
いわゆる外国人就労者を国外に追放することですね。
法務省管轄の入国管理法によって追放されるので行政処分という扱いになります。
行政処分そのものを受けるのは外国人不法就労者です。
流れとしては、強制退去自由に該当する可能性のある外国人を特定し、入国警備官の違反調査を受け、出国命令対象者と判断されると、入国審査官の違反捜査により追放かどうかが決定されます。
行政処分とは別に、外国人労働者を本来認められていない業務に就労させた企業が受ける処分は、刑事罰になります。
不法就労助長罪というものです。
不法就労助長罪に問われると、懲役3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられます。
つまり、外国人労働者をうっかりビザの種類で決められた種類の仕事をさせてしまうと、外国人労働者は強制的に国から退去させられるだけで済みますが、外国人労働者に資格外の仕事をさせた企業は重い刑事罰を受けるということです。
もしも刑事罰などを受けてしまうと、新聞等マスコミなどから格好の標的にされますし、風評被害などで社会的なダメージを受けることになります。
そのような事態を避けるためにも、外国人に任せる仕事には範囲をしっかりと定めておくことが大切です。
対策として、人事を持っている管理職には周知徹底を行う必要性がある
外国人を採用して、会社内受け入れる前の段階で、係長職以上の社員で、人事権を持った社員には入国管理法や法律についての勉強会を行い、しっかりと勉強してもらうことが大切です。
日本人であれば当たり前にやっている人事異動などについても、外国人社員には簡単に適用できないことが非常に多いためです。
人事部や総務部といった部署が、法的な知識をしっかりと得ておくことは大前提として、人事の承認を得なくてもできる簡単な部署異動などについても外国人にすると非常に面倒な問題になるというリスクを認識する必要性があります。
例えば、新入社員研修の場で外国人社員に挨拶をしてもらうという場合、単純に挨拶などは交流の一環なので全く問題はありません。
しかし、技術の仕事についている外国人社員に対して、製造現場に対して技術部の社員が製造している装置などを現場作業員の方たちが普段仕事で活用している実際の動きを見せるために現場作業をしてもらうというようなデモンストレーションはできれば避けるようにしましょう。
うっかり動画などに取られてしまうと、在留資格で許可された仕事以外の仕事を、外国人社員にさせていると、外部に勘違いされかねないためです。
また、三カ月から半年などの一時的な現場作業の需要増に対応するために製造現場に応援に出てもらうといった行為も避けるようにしましょう。
現場応援規定などが仮に就業規則で制定されていたとしても、それはあくまでも日本人の正社員に対する雇用慣習の上に成り立っているもので、外国人に適用すると違法になってくるものもあります。
現場の管理職が、外国人を、安易に人が足りない現場に異動させてしまうということが起こらないように、必ず注意徹底するようにしてください。
注意徹底するだけではなく、これまでは簡易な決済で済ませていた異動申請書などもしっかりと精査できるように、書類提出を促すとなお効率的です。
現場にとっては書類仕事が増えるので、抵抗感はあるかも知れませんが、のちのちになって大事になってしまうよりは、人事部門で人の異動には目を光らせておくことが大切です。
知らない間に勝手に資格外の仕事を外国人社員にさせてしまっていて、あとから大問題に発展してしまうよりは、最初から人事部門が主導権をもって人員配置などに一枚噛んでおけばトラブルに発展する前に問題を潰すことが可能なためです。
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判例
これまでの判例では、資格外就労(本来出来る仕事以外の仕事に外国人を就かせてしまう)ような場合には厳しい判決が出ています。
独立行政法人労働政策研究・研修機構掲載の、出入国管理及び難民認定法違反被告事件 東京高判平6.11.14 刑集51-3-357では、売春スナックを運営していた経営者に対して、外国人労働者を売春行為に及ばせ、不法就労を助長したとして懲役1年、執行猶予3年の判決がおりています。
売春ということも大きな問題点ではありますが、それだけではなく、本来の在留資格によって許可された活動ではないということも争点になっています。
売春行為というとそこばかりに目が行きがちになりますが、仮に日本人男性などと売春行為を働いていた外国人労働者が結婚するなどすれば特に資格外活動にはなりません。
普通の民間企業に置き換えてみると、ホワイトカラーで技術系の職員として「技・人・国」の外国人の社員を雇用したにも関わらず、結果的には現場作業をさせてしまっていれば、同様に資格外活動であると指摘される可能性が残ります。
さらに雇い入れる段階で、もしも在留資格そのものを持っていない外国人を雇用したりすれば、同様の罪に問われることもあり得ます。
外国人を雇用するときには、必ず在留資格の確認と従事する仕事内容を確定させておく必要性があります。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構掲載 判例より
https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/12/98.html
いざというときのために、弁護士との顧問契約は必須です。
日本そのものが少子高齢化の渦中にあり、外国人労働者を雇用しないと仕事ができなくなるという異常事態にになってきています。
これまでなんとなくしてきた仕事についても、これからはしっかりと法的な知識を持って対応していかないと、思わぬところで転ぶ可能性があります。
仮に外国人を採用したとしても、外国人特有の労働法規の問題点などは、実は企業人事などで経験豊富な人事部長クラスでも理解できていないことが多いです。
「うちにはベテランの人事スタッフもしっかりと雇っているから、そこまで大きな問題にはならないし、対処してもらえるだろう」という認識でいると、いざ大きなトラブルに発展したときに対処できなくなってしまいます。
もちろん、自社の社員を信頼することは良いことですが、本当に大きな法律問題に直面してしまうと、刑事罰などの対象になり、会社自体の信用を失いかねません。
いざというときのために、顧問弁護士に相談できるような体制を作るようにしましょう。