雇用条件の変更を、迂闊に進めてしまうと、
「雇用条件の不利益変更だと組合に猛烈な反発にあってしまった」
「従業員が不満をあらわにしているらしく、非常に会社内の雰囲気が悪くなってしまった」
という事態に陥りかねません。
企業の経営環境はグローバル化の推進などによって刻一刻と変化する一方で、労働者の生活を守るという側面から、労働基準法や労働契約法によって労働者の雇用条件を低下させることは、労働者側の同意がなければできないようになっています。
この記事を読めば、雇用条件の変更方法を理解することができ、従業員と衝突することなく、うまく雇用条件を変更することができます。
うっかりと雇用条件の不利益変更を、従業員の同意なく行ってしまい、労働紛争に巻き込まれないためにも、ぜひ、最後まで読んでいってくださいね。
⇒従業員の横領・使い込みでお困りの方はこちら!
従業員の雇用条件の変更は従業員と経営者の合意があることが大前提
労働条件は、従業員と経営者の間で合意があることが大前提となります。
労働契約法9条において、経営者が一方的に雇用条件を変更しようと考えても、従業員の同意を得ることが出来なければ、雇用条件の変更はできません。
参考:労働契約法第9条
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
|
円満かつ、穏便に雇用条件を不利益変更しようとする場合には、必ず従業員からの理解を得る必要があるということですね。
従業員の雇用条件の不利益変更はお金だけではなく、福利厚生の廃止等も含まれる
お金だけが雇用条件の低下だと思い込んでいませんか。
お金だけを見て雇用条件の変更を行うと、思わぬところから突き上げを食らいます。
雇用条件の不利益変更というと、最もイメージしやすいのが、給料を単純に下げるという方法です。
しかし、お金だけではなく会社が提供していた「社員の既得権」を廃止する場合にも、雇用条件の不利益変更は該当する場合があります。
例えば、以下のようなケースも不利益変更となります。
・家族手当や、住宅手当等の手当てを廃止する
・賃金を増やすことなく、所定労働時間を増やすなどお金は増えず、労働時間を延ばす
・休憩時間を従来より短くする(例:60分休憩を45分休憩とする)
・休日の日数を減らす(従来は121日あった休日数を115日に減らす)
・福利厚生として支給していた保養所等の利用料の補助金などを廃止する
・年功序列型の賃金制度から、実力主義の成果主義の賃金制度へ移行する
不利益変更に該当するのではないか、という一例をあげましたが、基本的にこれまで提供して保障してきた待遇が下がるという場合、不利益変更となります。
前よりも社員の生活が少しでも悪くなる変更であれば、慎重に考える必要性があります。
意外な盲点!手当は1度支給すると実質的な賃金となり、なかなか廃止できない
住宅手当や家族手当といった手当は、毎月の基本給とは分けて考えて支給されている会社が多いです。
しかし、実際に手当を毎月支給していると、実質的な賃金となり、手当が時代にそぐわないからといって廃止すると、お給料を下げたのと同じ扱いになります。
成果主義の賃金制度を導入しようと考えて労働条件の変更を行う場合には、必ずといっていいほど属人的な手当である家族手当や住宅手当の廃止が議論されます。
成果主義に移行するのだから、ただ家族がいるというだけの人や賃貸をしているだけの人に高い給料を払うのはおかしい、という考え方です。
その際、安易に手当の廃止をしようとすると、従業員から大きな反発を受ける可能性が高くなります。
対策としては、家族手当や住宅手当に変わる、新しく成果主義に馴染む形で同額の金額を保証するような形で、制度を作り変えることで同意を得るといった方法が好ましいといえます。
子供や奥さんがいるから貰える手当を、仕事に努力した人に回す形をとるなど、同額のお金を払うのであっても、成果を出している人に払うようにするなどの提案をすることで従業員や労働組合の納得を得られる可能性が高くなります。
⇒従業員の着服・不正行為の問題を解決する方法を見る!
従業員の雇用条件の変更をするために必要なこと
従業員の同意がなければ、基本的には、雇用条件を変更することはできません。
ただし、労働契約法の10条においては、特定の条件を満たせば、労働条件を会社側から一方的に行うことができるとしています。
参考:労働契約法第10条
(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
|
特定の条件とは、労働者に変更後の就業規則について周知することと、変更するにあたって合理性があるかどうかです。
変更について合理的であるかどうかについては、労働基準法10条の条文から推測することができます。
合理性を認めてもらうためには、移行期間を設けるなど、周知徹底をすることが大原則
労働条件の不利益変更を行うにあたっては、合理性があるかどうかが大切な指標となってきます。
また、いきなり労働条件の変更を通知して断行するのではなく、時間をかけて移行期間を設けることでも、認められやすくなります。
具体的には、以下の4要件を満たすことで不利益変更が認められやすくなります。
・雇用条件の変更にあたって、労働者が受ける不利益の程度は高いか低いか
・労働条件の変更の必要性は高いかどうか
・変更後の就業規則の内容の相当性はあるのか
・労働組合等との交渉の状況はどうなっているのか
それぞれについて解説します。
雇用条件の変更にあたって、労働者が受ける不利益の程度は高いか低いか
労働条件の変更によって、労働者が受ける金銭的なダメージの大小によって認められやすさが変わります。
将来にわたってずっと不利益な状況が続くのではなく、短期的に制度を変更する場合、認められやすいといえます。
また、実行するまでの間に3年程度、期間を設けるなどして、猶予期間が長い場合も認められやすくなります。
いますぐにやるのではなく、しっかりと従業員と話し合いをして、実施までに覚悟をしてもらったほうが、従業員のやる気も損なわれずに済む可能性も残ります。
いきなり実行するのではなく、従業員の反応などを見て対応策を決めましょう。
労働条件の変更の必要性は高いかどうか
労働条件の変更の必要性が高いかどうかも非常に重要な要素となってきます。
労働条件を変更しないと倒産してしまう!というケースであれば認められやすいといえます。
会社が潰れたら労働者保護どころの話ではなくなってしまうためです。
一方で、倒産することはないのだけれど、なんとなく社会の時流に現行の制度が遅れているからなど、将来を見据えての労働条件の不利益変更はするべきだという考え方では認められにくくなります。
会社の経営環境は刻一刻と変化していきますが、倒産する危険性のある状態でなければおいそれとは雇用条件の不利益変更はできないというこですね。
変更後の就業規則の内容の相当性はあるのか
変更後の就業規則の相当性については、同業他社の動きをよく見ておく必要性があります。
理由として、同業他社がそこまで躍起になっていない問題で労働条件を不利益変更するとなると、本当にする必要性があるのかと疑われるためです。
同業他社の動きに敏感となり、普段から人事労務関連のニュースを分析するなど、細かな洞察力が求められます。
同業他社との交流会を開き、情報を得るといった方法も良い方法です。
社会の時流を読み、同業他社の動きに目を配り、普段から「どういった制度であれば受け入れられるのか」ということを考えておく必要がありますね。
労働組合等との交渉の状況はどうなっているのか
労働組合等との話し合いなどをしっかりとしたかどうかも非常に大切な判定基準となります。
労働組合等との交渉の状況において大切なのは、しっかりと資料を用意して懇切丁寧に制度について交渉しているかどうかです。
組合に何の説明もなく、いきなり労働条件の変更の話をしても、労働組合の存続理由そのものが労働者の地位や賃金などの向上を目的としている以上、反発されてしまいます。
最終的に組合の同意を得られずに労働条件の不利益変更を行う場合にも、回数を重ねて資料を用意して、組合と交渉したという記録を残していくことで、誠実に検討を重ねたということになります。
労働組合を無視するような行動は絶対にNGです。
どれだけ頑なな考え方で、経営者と対立するような労働組合であったとしても必ず労働組合と話し合いをしましょう。
また、組合交渉を行う際は、必ず議事録をつけるようにしましょう。
合意するために、これだけ説明を重ねて誠実に組合の同意を得ようとしたという事実を残すためには、議事録を残すことが必須です。
議事録には、経営者や人事担当者、労働組合の組合3役の記名捺印を必ず貰うようにしましょう。
就業規則の周知義務を徹底する
就業規則の周知義務を徹底することが、雇用条件の変更には必須となります。
全く従業員が知らない状態で雇用条件を変更することはできないためです。
従業員が就業規則を変更されたことを「知らない」という状況では、就業規則そのものが効力を発揮しません。
「知らない」ものは守りようがありませんし、適用することもできません。
周知の方法については、労働基準法106条において、以下のように定められています。
・常時見やすい場所に就業規則を掲示または備え付ける
・書面で交付する
・磁器テープまたは磁器ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場の労働者が記録されたものをいつでも見られる状態にすること
上記の3つの要件全てを満たす必要性があります。
工場を抱えているメーカーであれば、各工場に机などを設置して、仕事中にいつでも見られるように設置しておく必要があります。
また、事務所であればパソコンの中に就業規則をいつでも見ることが出来るデータフォルダを備え付けるなどして、閲覧可能な状態にしておく必要性があります。
どのような職場であるにせよ、いつでも労働者が就業規則を閲覧できるように必ず措置を行う必要性があるため、注意が必要です。
就業規則を変更する前に、絶対にしておくべきこと
就業規則を周知する前段階として、労働者の過半数を代表する労働者か、労働組合の意見を聴取して、労働基準監督署へ提出する必要性があります。
就業規則の変更に関しては反対意見であっても、就業規則を変更すること自体は可能です。
しかし、必ず意思確認を行ったという経緯を示す書類が就業規則の変更の際には窓口で必要となります。
労働基準監督署への添付帳票として、必ず必要となるので、労働者代表または労働組合の意見書は必ず記名捺印してもらうようにしましょう。
従業員の雇用条件変更の具体的な手順
雇用条件の具体的な変更手順として、以下の手順があります。
・会社内に労働組合が存在する場合、労働組合との合意交渉を行う
・会社内に労働組合がない場合、従業員と個別に交渉する
会社内に労働組合があるケースでは、労働組合との合意があれば、スムーズに労働条件変更をすることができます。
一方で、労働組合が存在しない場合には、個別に社員と交渉していく必要性があるため、非常に時間がかかることもあります。
それぞれのケースについて解説します。
会社内に労働組合が存在する場合、労働組合との合意交渉を行う
会社内に労働組合が存在している場合、必ず労働組合に相談をするようにしましょう。
労働組合を無視してしまうと、不当労働行為などに該当する可能性があり、後々、非常に企業の印象が悪くなります。
いきなり議題を切り出すのではなく、普段から労働組合の意向を読み、切り口を考えてから交渉するほうが得策であるといえます。
労働条件の不利益変更は、労働組合が最も嫌がることです。
労働組合は従業員の賃金や地位の向上を目的として結成された組織であり、労働条件の不利益変更を申し入れることで、最初は反対の姿勢を必ず示す傾向にあります。
そこを折れずに、会社のためであると説得する努力をすることが大切です。
人事・経営者側が横暴な態度をとるのではなく、労働組合の立場も理解し、誠実な態度で交渉に挑むようにしましょう。
組合の理解を得るために、折れるところは折れて、通さなければならないところは通すという考え方で交渉をすることが大切です。
会社内に労働組合がない場合、従業員と個別に交渉する
会社内に労働組合がない場合、従業員と個別に労働条件の変更について同意交渉をすることになります。
個別に説明していく必要性があるため、組合との交渉よりも時間がかかる傾向にあります。
特段、定められたフォーマットなどはありませんが、必ず就業規則の変更について合意をした旨の書面に記名・捺印を貰うようにしましょう。
労働基準監督署に就業規則の変更届を出す際にも、合意書があったほうがスムーズに就業規則の変更の受理をしてもらえます。
合意を得て就業規則の変更を行った後には、必ず労働基準監督署に就業規則の変更の届け出を行うようにしましょう。
同意交渉がやっと終わった、と安心して就業規則の変更届を忘れてしまうと、せっかく取り付けた合意が無効になってしまいます。
必ず、労働基準監督署の受付印が最新の状態になった就業規則をファイリングし、忘れないように原本保管を行うようにしましょう。
⇒従業員が問題社員なので徹底的に対応したい場合はこちら!
従業員の同意を得ずに不利益変更することの大きなリスクとデメリット
労働組合や労働者の同意を得ずとも、経営者側の判断で労働条件の変更をすることは可能です。
しかし、大きなリスクとデメリットが待ち受けています。
以下のようなことです。
・社員からの反発による労働意欲の低下
・社会からブラック企業の烙印を押される
・労使紛争が勃発する
それぞれについて解説します。
社員からの反発による労働意欲の低下
社員からの反発により、労働意欲が低下する恐れがあります。
会社は同じ方向を見てみんなで利益を上げるという考え方を持たなければ、和が乱れてしまうことが多々あります。
会社に反発する社員が出たり、労働意欲が低下することは企業経営上、最も気を付けるべき問題です。
本来は会社の将来を考えて就業規則を変えたり、制度変更をするのに、社員がやる気を失っては制度変更をする意味もなくなってしまいます。
社会からブラック企業の烙印を押される
労働条件の不利益変更を強行することで、社会からブラック企業の烙印を押される可能性が非常に高くなります。
「社員の意見を無視するブラック企業」などと、悪い評判が立てば、長い目で見ると採用活動に悪影響が出たり、最悪は離職する社員が出て人材という大きな財産を失うことにもなりかねません。
従業員と揉めて企業が得をすることはほぼありません。
悪評が社外にまで及ぶと、製品の不買運動などにもつながりかねない危険な行為であるといえます。
労使紛争が勃発する
従業員の同意を経ずに、強制的に不利益変更をすることで、労使紛争が勃発する可能性が高くなります。
労働条件の不利益変更が不服だと、裁判などにかけられると、「会社名+事件」という形で報道などがされることが多々あります。
事件の内容によっては厚生労働省や労働基準監督署のホームページに判例として記載され、一生、【労働事件を起こした企業】と言われ続ける可能性もあります。
自分の会社が事件、という物々しい名前で出てしまうことで、印象は悪化します。
会社の名誉を守るためにも、会社名が悪い形で報道されるような事態は絶対に避けることをおすすめします。
人事労務に明るい弁護士に、必ず相談を
労働条件の変更を行う前に、必ず弁護士に相談を入れるようにしましょう。
安易な雇用条件の変更は、労働紛争に巻き込まれる可能性が非常に高いです。
労働紛争に巻き込まれれば、会社経営をするどころではなくなってしまいます。
労働審判で止まればよいですが、もしも本裁判に移行すると、3年間も裁判にかかってしまったというケースもあります。
普段から相談できる存在を、必ず確保しておくようにしましょう。
-
就業規則を作成しなくてもよい場合があり中小企業はこれに該当する可能性があります
-
就業規則を作成しなくてもよい場合があり中小企業はこれに該当する可能性があります
-
労働時間管理をしなければならない理由とは
-
労務コンプライアンス(労働基準法・最低賃金法・パートタイム労働法・男女雇用機会均等法・障害者雇用対策法・高齢者雇用促進法・労働安全衛生法など)について
-
従業員を整理解雇する方法!
-
過重労働・長時間労働の労働災害により安全配慮義務違反の損害賠償請求をされてしまった!
-
M&A労務デューデリジェンス(DD)の視点
-
M&Aに伴う社員の給与や退職金の取り扱いについて!
-
元従業員から不当解雇で訴えられた場合の対抗方法!
-
用語集:解雇権濫用法理
-
労働安全衛生管理問題とM&A!
-
給料・ボーナスカットの方法!
-
雇い止めが違法無効とのことで損害賠償請求をされた!
-
労働災害(労災)が発生した場合の対応・流れについて
-
外国人の問題社員を解雇する方法!
-
問題社員を辞めさせる方法!