会社を経営していたり、管理部門で人事の仕事をしていると、
「せっかく採用したけれど、会社にいてもらっては困る」
「面接時は非常に優秀だと思い採用したが、会社を休んでばかりで、周囲の社員の士気に影響してしまっている」
など、残念ながら、65歳の定年の日まで会社に勤務してもらうことが難しい社員が出てきてしまいますよね。
かといって、解雇をすることは非常にハードルが高く、滅多なことで出来るものではありません。
できれば本人の意思によって自主退職してもらいたいというのが本音ではないでしょうか。
この記事を読めば、穏便かつ円満に、社員に早期退職をしてもらう退職勧奨の具体的な方法を理解することができます。
ぜひ、最後まで読んで、具体的な方法を掴み、トラブルを避けて退職勧奨を出来るようにしてくださいね。
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従業員の解雇と退職勧奨は大きく異なる
解雇も退職勧奨も同じだと混同していませんか。
同じ従業員を辞めさせる行為がであったとしても、解雇と退職勧奨は大きく異なります。
解雇は会社側が一方的に本人の話を聞かずに雇用関係を終了させる方法であり、基本的には解雇はハードルが高く、滅多なことでは決行できません。
ただし、本人の意見を聞かずに手続きを行るため、手続きだけはスピード感を持って行えます。
反対に退職勧奨は出来うる限り、本人と話し合いを重ねたり、退職後に少しでも本人が生活に余裕を持って転職活動をすることができるように、退職金の割増しなどを行い、穏便かつ円満に退職をしてもらえるようにすることが退職勧奨です。
従業員の退職には大きく分けて2種類が存在する
「同じ辞めさせるという行為でも、会社都合と自己都合ではどんな違いがあるの」と不思議に思う方はたくさんいます。
退職には大きく分けて以下の2種類の区分があります。
・自己都合退職(退職勧奨等で合意を形成して決定)
・会社都合退職(会社の一方的な都合で社員の生活を変える決定)
自己都合退職とは、会社と社員が話し合いの末に、退職に合意をして、納得の上で自己都合に至ります。
連日、大企業のリストラ等のニュースが流れていますが、多くの場合は、退職金割り増し等で自己都合退職を社員にお願いしているパターンが多いといえます。
反対に、会社都合退職は、会社の都合で一方的に雇用関係を終了させるというものです。
強制的に解雇をしているというケースは実は少ないといえます。
社員は会社に辞めると伝えて、実際に辞める権利を持っていますが、会社は社員に辞めろという権利はあっても、実際に解雇権を行使するには非常に高いハードルがあります。
つまり、退職勧奨は、自己都合退職を得るための非常に重要な交渉となります。
従業員の解雇などの会社都合退職を行うと、助成金の活用や採用活動の支援をハローワークから受けられなくなる
なぜ解雇などの自己都合退職を絶対に避けなければならないのでしょうか。
実は、解雇など、会社都合退職を行ってしまうと、ハローワークや労働基準監督署から要注意事業所としてチェックされてしまう可能性があります。
特に、若者応援宣言事業などのハローワーク側が力を入れている若者就職の支援策などは過去1年間の間に、会社都合離職を1人も出していない企業ではないことが大前提となっています。
ハローワークの認めている優良企業とは、会社都合離職を出していない企業のことを指すためです。
一度でも会社都合離職を出してしまうと、ハローワークに求人登録をすることは出来ても、厳しい要件のついた就職イベントなどには参加できなくなる可能性が高くなります。
若者が欲しいと思って採用活動を頑張っている企業にとっては、ハローワークの開催する各種イベントに出展できなくなることは非常に大きなダメージとなります。
また、ハローワークから支給される雇用関係の助成金なども同様であり、会社都合離職を1人でも出していると、助成金などを受けられなくなる可能性があります。
会社都合離職というのは、それだけ重いペナルティを伴う決断ということで、おいそれと行うものではありません。
会社都合離職を出してしまうだけで、会社側は行政から「労働法を守らない、要注意の事業所である」と見なされてる可能性が高くなります。
従業員の解雇のハードルは非常に高く、倒産の危機以外ではなかなか行えない
解雇は労働基準法によって、滅多なことでは出来なくなっています。
社員を解雇するためには、客観的に見て合理的な理由が必要となってくるためです。
労働基準法第16条
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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客観的に見て合理的がどうかは、以下の基準で判断されます。
・労働契約を終了させなければならないほど従業員の能力が低い場合
・会社が倒産の危機に瀕しているなど、非常に危うい状態かどうか
それぞれについて解説します。
労働契約を終了させなければならないほど従業員の能力が低い場合
労働契約を終了させなければならないほど、従業員の能力が低い場合、解雇をすることができる可能性があります。
ただし、従業員の能力不足を理由に解雇する場合には、従業員の能力向上のために会社が従業員のために、努力をしたかどうかが問われます。
仕事ができないから解雇することは原則としてできず、ちゃんとセミナーに参加させて業務知識を身につけさせたり、指導員をつけて何度も指導するなどの、努力をすることが必須となります。
非常に労力がかかる上に、果たして本当に仕事が出来るようになるのかも分からないため、様々な負担がのしかかります。
会社が倒産の危機に瀕しているなど、非常に危うい状態かどうか
会社が倒産の危機に瀕しているなど、非常に危うい状態の場合、解雇を認められやすいといえます。
会社が倒産してしまえば、労働者を保護するということそのものが難しくなってしまうためです。
ただし、その場合も、解雇すべき人材の選定基準について合理性があるかどうか、人員整理を行う前に手を尽くしたのかなど、合理的な理由がなければなりません。
客観的に見て合理的、と労働契約法には記載されていますが、解雇について客観性を持たせることは非常に高いハードルがあります。
ある程度、事業がうまく回っている状態で、特定の個人1人を解雇しなければならないような状況というのは、なかなか生み出せない状況でもあります。
会社都合退職を避けるためにも、解雇ではなく、退職勧奨を行う方が望ましい
解雇等の会社都合離職を避けるためにも、退職勧奨を行う方が望ましいといえます。
理由として、会社都合での退職は労働基準法と労働契約法で「滅多なことでは認められない」とされているのに対して、裁判所は退職勧奨に関しては、ある程度、認めているためです。
解雇は一方的に雇用関係を終了させる違法行為と判断されやすい一方で、退職勧奨等で合意を取り付けている場合、労働契約を終了させるという合意をとっているため、お互い納得済の契約終了であるという違いがあるためです。
同意をせずに無理やり契約を終わらせれば、当然、もめ事に発展しかねませんが、合意の基に行っている場合には、もめ事にならない可能性もあります。
会社の地位や名誉を守り、労働紛争を起こさないためには、慎重に慎重を重ねて、出来るだけ退職に関する合意を取ることが大切です。
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従業員の退職勧奨も度をすぎれば、退職強要となり無効となる
解雇よりも退職勧奨の方が、労働者本人の同意を得ている分、もめ事にはなりにくいのですが、何度も繰り返すと退職を強要したとして無効となるケースがあります。
参考:厚生労働省 下関商業高校事件 (S55.07.10最一小判)
下関商業高校事件では、退職勧奨を何度も繰り返し行ったことで、退職を強要したとして、雇用側が敗訴しています。
退職勧奨に関しては、特に、あくまでも本人の合意を受けることが目的です。
無理やり本人を「退職する」と言わせてしまうような状況まで追い込んでしまっては、本来の経営者と労働者の双方の合意を基に退職の意思表示をしてもらうという目的から外れるばかりか、裁判所等で違法行為として認定されてしまうということです。
従業員の退職勧奨では、対象者に対して、出来る限りの提案をすることが大切
退職勧奨を行う場合には、対象者に対して、出来る限りの提案を行い、従業員側から「それなら乗ったほうがお得かも知れない」と思ってもらうことが大切です。
最悪なケースとしては、「どうせ解雇するから条件を飲め」という風に、解雇をちらつかせて退職勧奨を行うことです。
脅迫による意思表示となり、後々、労働審判や裁判に移行した後、無効とされてしまう可能性が非常に高いやり方です。
本人が退職を強要された、と思った時点で、会社側が不利な立場になります。
そのため、解雇をチラつかせて退職勧奨を行うのではなく、退職勧奨を受ける従業員の気持ちに出来るだけ寄り添って、退職勧奨を行うことが望ましいといえます。
具体的には、以下のような方法です。
・退職金の1.5割増
・半年間の間、有給扱いにし、転職活動が決まるまでの期間は賃金を支給し続ける
それぞれについて解説します。
退職金の1.5割増
従来の従業員に支給している退職金よりも多めの退職金を支給することで、本人の同意を取り付ける方法です。
退職すれば、当然、従業員は明日から生活していくお金がなくなり、困窮することになります。
そのため、退職金を割り増しするなどして、次の就職まで困らない程度の退職金を支給して、合意をとりつけます。
「結局、大きなお金がかかるじゃないか」と思われるかも知れませんが、労働紛争に巻き込まれれば下手をすれば3年間近い紛争に巻き込まれることになります。
特に労働審判などは、スピーディに紛争解決が行われる代わりに、経営者側が1回でも労働審判を欠席すれば、労働者側の言い分で経営者側が敗訴します。
しかも、労働審判は主に金銭解決が目的の制度なので、裁判官に一生懸命に人事側・経営者側が解雇理由や退職勧奨の理由について訴えかけても、「で、いくら払うのか」という風な論調で終始することになります。
退職問題の解決に関しては、後でお金を払うか、先にお金を払うのかの違いしかありません。
労働紛争に巻き込まれれば、貴重な時間も奪われます。
半年間の間、有給扱いにし、転職活動が決まるまでの期間は賃金を支給し続ける
仮に退職金割り増しなどの金銭的な優遇を避けたい場合には、次の職場が決定するまでの間は全て有給扱いとして処理し、転職活動を続けられるように配慮しましょう。
労働者側としては、いきなり解雇されてしまうよりは、非常に魅力的な提案となります。
転職市場などが好調なときは、思ったよりも早く内定が出て、自主退職をしてもらえる可能性があります。
「あなたはうちの会社にいてもらうことは難しいが、他の企業で新しく活躍できる場所を見つけられるまでは最大限サポートさせていただきたい」という風に伝えるようにしましょう。
あえて退職以外の選択肢も織り交ぜた提案を、最低3つ以上与える
退職金割り増しや、出勤日を前日有給扱いにするなどの魅力的な条件の中に、あえて退職以外の提案を1つだけ入れるようにしましょう。
理由として、すべての選択肢が退職となっていると、結局は提案内容そのものが「退職勧奨ではなく退職強要であった」と言われかねないためです。
具体的には、現在の勤務先から遠方の僻地の事業所や、海外の事業所に異動するなどの選択肢を一つ混ぜておくという方法です。
また、提案は最低でも3つ以上の選択肢を与えるようにしましょう。
あくまでも従業員側が自ら選択したという意思表示を確認するためです。
具体的には、以下のようにすることが望ましいといえます。
・選択肢1 退職金を1.5倍増しの1,500万円を支給する(仮に退職金が1,000万円として)
・選択肢2 半年間の間、在籍扱いとし、前日有給扱いとする。その間、転職活動等を行うなど、行動に関しては全て自由とする。健康保険厚生年金等、全て半年間は会社負担。
・選択肢3 海外事業所への異動
上記のような選択肢であれば、若干、退職を強要するように見えて、しっかりと他の事業所で仕事を続ける選択肢も残っています。
選択肢の1番目に最も魅力的な提案を置いておき、会社が一番選んでもらいたい提案を記載しておくことが大切です。
⇒従業員が問題社員なので徹底的に対応したい場合はこちら!
従業員の退職勧奨は、人事労務に明るい弁護に依頼をしましょう。
退職勧奨は、労務管理の中でも非常に難しい仕事です。
もしも自社に人事経験が10年を超えているような人材がいれば、ある程度は対処できる可能性はあります。
しかし、仮にベテランの人事部員を抱えている企業であっても、非常に難易度の高い退職勧奨を行う場合には、顧問弁護士に相談をしつつ、進めていくことが一般的です。
自社の人事部員だけで対処できるケースであっても、厳密な法律的な問題となってしまえば、弁護士が必要となってくるためです。
言葉を違えただけで一千万円以上の損害が追加でかかるケースも存在します。
また、人事部員を抱えておらず、経営者が単独で退職勧奨を進める場合には、確実に弁護士のサポートが必要となってきます。
「社員を辞めさせるくらいで大げさな」と思っていると、問題が起こった瞬間から、精神的に疲弊するような労働紛争に巻き込まれることになります。
そうなる前に、必ず弁護士と協力をし、退職勧奨を遂行し、円満な退職を実現できるようにしましょう。
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