人事や経営者をされている方は、
「社員にあまりにやる気が感じられないけれど、給料を下げることはできるのかな」
「新型感染症の影響で売り上げがなくかなり厳しい。給料・ボーナスをカットする方法はないのだろうか」
と悩んでいませんか。
結論から申し上げますと、ボーナスのカットは比較的容易ですが、給与をカットすることは非常に難しいといえます。
ボーナスが業績や本人の頑張りを反映する性質をもっているのに対して、給料は生活のために必要な大切なお金であり、労働基準法で守られているため、簡単に下げるわけにはいかないという側面があるためです。
特に給料のカットに関しては労働組合などに攻撃される格好の入り口となる可能性が高くなります。
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給料・ボーナスカットの方法!
この記事を読めば、給料・ボーナスをカットする方法について理解することができます。
社員の給与やボーナスカットについて悩んでいる方は、ぜひ、最後まで読んでいって下さいね。
給与を下げることは労働基準法で厳しく制限されている
生活に必要な大切な給与を下げることは非常に難しいです。
労働基準法91条において「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」という規定があります。
参考:労働基準法91条
労働基準法91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
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どれくらい給与を下げることが難しいかといえば、以下のようなケースでも労働基準法91条以上の減給が難しいです。
東豊観光事件では売り上げの急減に伴い15%の賃金カットを断行しようと会社側がしましたが、労働者側との合意なしに賃金の引き下げは出来ないとして無効という判決が出ています。
参考:東豊観光事件
裁判所としては倒産危機下にあったとしても労働者の合意がなければ労働契約法違反となる旨を告げています。
倒産危機に陥っていても社員の同意なしに給料の引き下げはできないという厳しい判決となっています。
ボーナスについては会社側の自由な裁量が認められている
ボーナスカットについては実は非常に幅広く会社側の裁量が認められています。
極端な話、特別な契約や就業規則上の定めがなければ、事前通告さえしておけば0円にしてしまっても問題ないといえます。
ボーナスは労働の対価ではなく企業の業績に応じて支給される要素が強いためです。
しかも労働基準法などにボーナスに関する法律がほとんどないということもあります。
ボーナスについては裁判で争うレベルの法律が少ないため、給与を下げる前にまずはボーナスをカットするほうが安全であるといえます。
ただし、労働契約書に以下のような文言がある場合は注意をしましょう。
「賞与(ボーナス)の支給については、平均給与の4か月分を支給する」など、労働契約書などにうっかりと支給月数などを記載してしまうと契約を結んだという解釈になり支払う義務が出てくる可能性があります。
また、就業規則上で「賞与の支給については前年の期間中の評価ならびに会社の経営状況によって決定する」という場合も注意が必要です。
完全に業績連動だと就業規則に記載してある場合には問題ありませんが、前年の期間中の評価も勘案して支給するという文言を記載していると「業績が悪いのは理解したけれど、期間中の働きに応じた部分に関する賞与は支払いなさい」と判断される場合があります。
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給与を下げるための具体的な手順
「給与を下げることが絶対出来ないならどうしようもないじゃないか」と不安になりませんか。
実は、従業員と合意をすれば給与を下げることは可能です。
出来る限り、労働組合や労働者代表との話し合いを重ねましょう。
具体的には、以下の方法があります。
・評価制度改変と人事考課制度の抜根的見直し
・労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う
・リモートワーク移行を行い、残業代をなくし、通勤手当をカットする
・定年後の賃下げを規定化する
それぞれについて解説します。
評価制度改変と人事考課制度の抜根的見直し
評価制度の改変と人事考課制度の抜根的な見直しを行いましょう。
現在は事務職を筆頭にリモートワーク移行を検討する企業が多いです。
せっかくリモートワークに移行するのに前の評価制度のままにしておくことは実は非常にもったいないといえます。
リモートワーク移行時に「これまでとは異なる評価体系を導入する」と伝えることは実は非常に納得性が高いためです。
富士通などの大企業も続々とジョブ型雇用に評価制度を切り替えていっています。
参考:日経新聞 富士通、オフィス半減発表 在宅勤務支援に月額5千円
これまで正社員だからなんとなく毎年昇給をしてきたけれど、これからは成果で評価をするという評価体系に切り替えることで少なくとも優秀ではない社員の賃金の過度な上昇を食い止めることができます。
実質的な賃金カットを達成できる可能性があります。
労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う
労働組合と期間限定の賃下げについて話し合う方法があります。
重要なポイントは話し合いをし尽くすことです。
究極的にいえば裁判にさえ移行しないのであれば組合の合意がなくとも賃下げをすることは不可能ではありません。
ただし、労働組合と話し合いを徹底しておくことで賃下げで仮に裁判移行したとしても「少なくとも労働者の合意を取ろうと話し合いは徹底していた」という判断になることもあり得るためです。
期間を限定する意味としては、ずっと続く賃金の低下をそもそも労働組合が聞き入れる可能性が非常に低いため、一定の期間を定めて交渉をするほうが良いという理由があります。
経営状況が一時的に厳しいという場合には有効な方法であるといえます。
リモートワーク移行を行い、残業代をなくし、通勤手当をカットする
リモートワーク移行を促進し、残業代をなくし、通勤手当をカットする方法があります。
残業代と通勤手当をカットするだけでも相当支払いは少なくなります。
残業代は基本給の1.25倍以上支払い義務がありますし、通勤手当も非課税限度額10万円まで支給しているとしたら相当なコストカットになります。
また、自社ビルを持っていない企業であればオフィスの賃料がなくなるため大きなコストカットになります。
通勤手当と残業代がなくなれば健康保険料や厚生年金保険料の算定が下がるため会社の支払う社会保険料も安くなります。
直接給料を下げるだけではなく見落としがちな社会保険料の負担を減らして経営を圧迫しがちな固定費を見直すという手法も検討しましょう。
定年後の賃下げを規定化する
定年後の賃下げを規定化するようにしましょう。
実は裁判所が支持している考え方として「年齢が高くなり定年を過ぎて再雇用になったら給料が下がるのは仕方がない」という判決があります。
長澤運輸事件では社員が定年後に賃金が下がることは合理的だと最高裁判決が出ています。
参考:長澤運輸事件
年金支給開始年齢が引き上げられたことをきっかけに各企業が定年後の再雇用に関しては給与を引き下げる人事制度を導入しています。
定年をきっかけに再雇用に移行する段階で給与を引き下げることは合理的だということです。
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給料カットは従業員と話し合いを重ね同意を得よう
給料カットは従業員と話し合いを重ねて同意を得るようにしましょう。
基本的にしっかりと同意をしていれば、裁判移行する可能性も低く、会社側の意見が通る可能性が高くなります。
ただし、同意を取ったと言ってもしっかりとしたプロセスを踏まなければ賃下げは難しい側面があります。
特に会社側が話し合いをしっかりとしたと思い込んでいても、従業員が一方的な賃下げだと感じた場合訴訟に移行する可能性が高く、敗訴する確率が高くなります。
給料カットを考えたら労働実務に詳しい弁護士に依頼し、制度設計から一緒に考えていくことをおすすめします。