人事や経営者をしていると、
「そういえば契約社員さんの更新が3回目だな。今回も前と同じ契約更新で良いだろう」
「契約社員さんのリストラをしないともう事業所が持たないから契約更新は今回で終わりにしておこう。もう5年もいるのに悪いことをしてしまうなぁ」
などと、契約社員の契約更新を漫然と行っていませんか。
結論から申し上げますと、3年以上契約更新をしてしまっている契約社員を雇い止めすることにはとてつもなく大きなリスクがあります。
契約社員などの有期雇用契約に関しては、原則3回以内(1回を1年程度として)、3年が経過する前に契約期間を終えていないと雇い止めどころか正社員同等にリストラをするのが難しくなるという判例が存在するためです。
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有期雇用契約者の雇止めの方法(パートタイマーを辞めさせる方法)!
この記事を読めば、有期雇用契約の雇い止めによるリストラの方法について理解することができ、法的トラブルを避けて非正規従業員の雇い止めをする方法について理解することができます。
漫然と契約社員の契約更新をしているという方は、ぜひ、最後まで読んでいって下さいね。
有期雇用契約は原則3年を超えてはならない。3回以上の契約更新も危険
有期雇用契約は原則として3年を超えてはいけません。
正社員雇用がある意味では前提となっている日本企業特有の上限で、いつまでも労働者に不安定雇用を強いるわけにはいかないという趣旨で出来たものです。
厚生労働省からの通達も出ており、専門的な知識等を有する労働者については5年の契約が認められています。
参考:厚生労働省 労働契約期間の上限について~有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態として活用されるために~
3年以上の契約更新をしてしまっている場合には有期雇用契約とはいえ契約更新の期待をさせてしまっていることになるため、正社員並みに解雇することが難しくなる可能性があります。
また、契約更新の回数についても注意が必要となってきます。
最初から契約更新は最長3年までと伝えていないケースでは3年以上の契約更新を行っていると正社員と同じ定年までの雇用を期待させたと判断されてしまう可能性が高いためです。
例えば、東芝柳町工場事件では、契約更新の頻度がなんと5回から23回もあったなど、以下の争点がありました。
・正社員の工員と臨時工で仕事内容に大きな相違がない
・労働条件が正社員と変わらない
・臨時工が期間満了後も契約更新を平然としている。正社員登用されていなくても大半の臨時工がそのまま会社で仕事を続けている
・契約更新業務をしっかりと契約期間満了ごとに行われていない
・正社員登用への期待を労働者に与えるような言動があった
参考:東芝柳町工場事件
つまり、契約社員を普段から適切に管理していないと裁判所は雇い止めを無効とする可能性が高いということです。
自動車業界に厳格に存在する2年11ヶ月で雇い止めルールは有期雇用契約を熟知した設計で合法的なルールとなっている
契約社員の中でも最も有名なのが期間工と呼ばれる臨時工です。
自動車業界では繁忙の波が激しいため、期間工を活用して急激な生産の増減に耐えられるような雇用形態として期間工を採用しています。
トヨタ自動車などを筆頭に、期間工は原則2年11ヶ月(35ヶ月)で雇い止めを行うか、それとも正社員に登用するのかを決定します。
原則として2年11ヶ月を超えて3年以上の雇用契約を結んでしまった場合、雇い止めができなくなるため2年11ヶ月ルールをトヨタ自動車は活用しています。
例え有期雇用契約だったとしても、一定の期間を過ぎて漫然と雇用契約を結んでいた場合、解雇は難しくなります。
有期雇用契約の雇い止めに関しては実は自動車業界は非常に先駆者であり、2年11ヶ月満了で退職した場合には特別なボーナスを支給する慰労金があるなど、契約社員とトラブルになることなくスムーズに退職してもらうノウハウを持っています。
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雇い止めを行うために必要なこと
いきなり雇い止めを行うことは非常に難しいといえます。
原則3年を超えるまでの期間に契約更新などをあいまいにすることは絶対に避けるようにしましょう。
特に危ないのは定期的な契約更新面談を行っていないというケースです。
具体的には、以下のような行動を徹底するようにしましょう。
・契約期間は最長3年までと最初に伝える
・正社員登用制度があったとしても「ほとんどの人が正社員にはなれないよ」と口頭で伝えておくこと
・各契約期間満了のタイミングで必ず契約書を結びなおすこと
・正社員と契約社員で待遇差をある程度はつけておくこと
それぞれについて解説します。
契約期間は最長3年までと最初に伝える
契約期間は最長3年までと最初に伝えるようにしましょう。
理由として、専門職を除いた契約社員は法律で3年以上雇用することができないためです。
もしも仮に3年以上の契約更新を漫然と行ってしまっている場合、解雇するためのハードルの高さは正社員とほぼ同じと考えるようにしましょう。
正社員登用制度があったとしても「ほとんどの人が正社員にはなれないよ」と口頭で伝えておくこと
求人広告を出すときに何げなく「正社員登用制度あり!」と求人の目玉にしてしまうことがありませんか。
正社員登用制度を謳うことは決して悪いことではありませんが、面接の場では「ほとんどの人が正社員にはなれないよ」など、正社員登用試験は難易度が高いとそれとなく伝えておくようにしましょう。
契約更新されていけば自然と正社員になれるものと応募者に勘違いを与えかねないためです。
あまりに期待をさせすぎると裁判移行した際に「正社員には契約更新されていけば勝手になれるものだと理解していた」などと主張され会社側に不利な展開になる可能性があります。
各契約期間満了のタイミングで必ず契約書を結びなおすこと
半年ごとや1年ごとに契約更新をしている場合、絶対に契約期間満了30日前のタイミングで契約書を結びなおすようにしましょう。
契約期間の途切れるタイミングで何も契約書の更新などを行っていないと、正社員雇用と同じだと裁判所に判断されやすくなるためです。
契約社員が多すぎてしんどいし、そんな労力は避けない!という場合にはせめて契約更新のタイミングで契約期間だけでも良いのでワードやエクセルで打ち直して結びなおすようにしましょう。
そうしなければ契約社員なのか正社員なのか法的に判断し辛くなります。
正社員と契約社員で待遇差をある程度はつけておくこと
正社員と契約社員では必ず給料や休日日数などに正社員と差異を設けておくようにしましょう。
理由として、正社員と待遇差がないのであれば一体何を根拠に契約社員として雇用しているのかが分からなくなる可能性があるためです。
正社員は日給月給制度で、契約社員は時給制度など給与差をつけられなくても給与体系を完全に分けてしまうなどの方法も有効です。
何をもって契約社員というのかを証明するために、必ず何か正社員と契約社員で差異を設けるようにしましょう。
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契約社員に対して退職勧奨をする場合に有効な方法
これまで解説したような手続きを踏んでおらず、危険な状態にすでになっているケースもあります。
その場合、雇い止めをするのではなく退職勧奨を行いましょう。
具体的には、以下のような方法です。
・事業部自体を解散する
・退職金優遇を提案して自主退職を促す
それぞれについて解説します。
事業部自体を解散する
契約社員を雇用している職場がもしもほとんど契約社員しかいないという状態であれば事業部自体を解散するという方法があります。
現在神奈川で事務所を構えているとしたら、埼玉などに事務所を移転するなど、事業所自体が移動するという方法です。
「あまりに大胆すぎるのではないか」と思われるかも知れませんが、大企業で資金力に余裕のある会社は雇用関係の強制終了のために事業所ごと移転して事業部を解散するなどの方法をとっていることがあります。
退職金優遇を提案して自主退職を促す
自主的に退職を促すために、退職金優遇を提案してみましょう。
退職する日まで有給扱いにするか、または転職先が決まるまで有給扱いにするなどのお金をもらいながら転職活動できる状態に優遇するという方法も有効です。
本人も在職中扱いで転職活動できるので職歴に穴が空かず、喜んで提案を受け入れてくれる可能性があります。
自分では判断がつかない場合、安易な雇い止めをする前に弁護士に相談をしよう
労働関係の法律が複雑すぎることもあるため、自分では判断がとてもつかないと思ったら迷わず専門家である弁護士に相談するようにしましょう。
安易な雇い止めをしてしまったが最後、何年もの時間を費やす労働裁判に巻き込まれる可能性があるためです。
最初から弁護士をいれておけば早く終わったかも知れないというケースは労働裁判では山ほどあります。
ほとんどの経営者が労働組合の団体交渉や労働基準監督署などに不利な証拠を取られてかなり追い込まれた状態になって初めて弁護士に相談することになります。
そうならないためにも、雇い止めを考えた瞬間から専門家の知恵を借りるようにしましょう。