会社を経営していると、経営状態の良い時悪い時があると思います。
良い時には人手不足のためどんどん採用していても、一転して経営状態が悪くなれば人員整理を行う必要があるかもしれません。
このような経営状態の悪化による人員整理のことを、整理解雇と言います。
今回はこの整理解雇を行う方法や、どのような時に行うのかや、トラブルにならない方法などについて詳しく解説していきます。
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従業員の整理解雇について
整理解雇とは会社の経営悪化などが原因で行われる解雇のことで、余剰人員の削除を目的に行われます。
あくまでも会社側の都合で行われ、能力不足や無断欠勤が多いなどの事由で行われる解雇とは異なるものです。
そのため、従業員側にはまったく非が無くても行われる解雇なのです。
労働基準法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」とあります。
そのため、整理解雇は権利を濫用したものと判断されやすく、他の解雇よりも厳しく見られる傾向があるのです。
整理解雇が無効にならない基準として、以下の4つの要件が判断基準となります。
即ち、以下の4要件を満たす資料等を準備しておけば、裁判になっても不当解雇と判断されにくくなるのです。
人員削減が経営上必要であること
会社の経営が著しく悪化していて、整理解雇によって人を減らさなければ会社の存続が厳しい場合のことです。
会社側はこのままでは会社の存続が難しいという状態を、誰が見てもわかるような資料を準備しておく必要があります。
そのような状況を証明できれば、不当解雇と判断される可能性はほとんどありません。
また、どのくらい経営が悪化しているので、どのくらいの人数の従業員を減らす必要があるかも具体的にわかるようにしておく必要があります。
仮に経営が赤字になっていなかったとしても今後の状況や人員整理の必要性をきっちりと資料で示すことができれば、整理解雇が裁判でも認められる可能性があります。
会社側が健全経営のために人員削減をしようとしているのに、部外者が不当解雇と判断を下すのはなかなか難しいようです。
一方、以下のようなケースでは、整理解雇による人員削減が必要ないと判断される可能性があります。
- 整理解雇をしようとする一方で、新規の求人を行っている場合
- 整理解雇をしようとする一方で、従業員の大幅な昇給や賞与額を増加させたりしている場合
- 希望退職による人員削減や将来の自然退職による人員減少を考慮した場合、整理解雇をしなくても良い場合
- 経費削減などの解雇を回避する努力を尽くしたこと
会社の経営悪化のために整理解雇を行うことは、裁判になっても一つの改善策として認められる事例もあります。
しかし、経費削減と解雇を回避するあらゆる努力をした上で整理解雇を行えば、不当解雇と判断される可能性は小さくなります。
例えば、経費削減と解雇を回避する努力には以下のようなことが考えられます。
- 役員報酬の削減の実施
- 新規採用の中止
- 派遣社員、契約社員、パート社員の削減の実施
- 時間外労働の中止
- 従業員の賃金カットの実施
- 希望退職者の募集
- 従業員の他の部門への配転や出向
- 従業員の一時帰休の募集
- 解雇される退職者の選定方法が合理的であること
整理解雇される対象者を合理的基準で選んでいるかどうかも不当解雇と判断されない重要なポイントです。
会社側の希望ではなく、客観的で公平な基準に基づき解雇対象者を決めなければいけません。
例えば、合理的に決定する基準とは以下のようになります。
勤務成績や会社への貢献度を基準に判断
このケースは、評価が低いなど勤務成績が悪い従業員や、会社への帰属性が低いアルバイトやパートなどの非正規労働者、賃金が高額な年配者などが対象者になります。
勤怠状況を基準に判断
このケースは、遅刻や欠勤や懲戒処分の数が多い従業員などが対象者になります。
経済的打撃の程度により判断
扶養している家族がいない従業員や、共働きで収入に余裕がある従業員などが対象になります。
解雇対象者や組合などに十分に説明し協議したこと
解雇対象者や労働組合などに会社の決算書類などを提示し、十分な説明と協議をしたかどうかも不当解雇と判断されない重要なポイントです。
解雇される側の従業員が十分に納得する手順を踏んでいない場合や、決算書類などの資料の開示を拒否した場合などは不当解雇と判断される可能性があります。
また、労働組合との団体交渉を1度しかしない場合や、整理解雇の直前に団体交渉を行った場合などは、十分な説明をしたとは言えないと判断されることもあります。
このように、整理解雇を行うには、上記の4つの要件を満たせば不当解雇とされることはほとんどありません。
そして、この4つの要件は過去の裁判の判例や実績から導かれているものです。
終身雇用制や年功序列型賃金が当たり前だった日本において、会社都合による整理解雇が従業員の生活や将来設計を壊すものとして4つの要件が満たされていない場合は不当解雇と判断していました。
しかし、現在の日本では終身雇用制や年功序列型賃金が崩壊し、非正規の雇用も増えています。
さらに、大企業では4つの要件を満たすことも可能ですが、多くの中小企業にとってはそこまでの余裕がないのが現状です。
そのため、最近では4つの要件をすべて満たしていなくても、不当解雇にならないケースも増えてきています。
とはいいつつも、整理解雇を行う前に、4つの要件を満たしているのかいないのを考えなくてもいいわけではありません。
整理解雇を行わなければならなくなった場合は、必ず4つの要件を考慮してできるだけ満たせるように気を付ける必要があります。なぜなら、少しの不注意で不当解雇と判断される可能性が高くなるからです。
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従業員の整理解雇とリストラとの違い
整理解雇とは会社の経営悪化による会社都合の解雇ですが、ちまたによく聞くリストラとは何が違うのでしょうか?
ここでは整理解雇とリストラの違いについて解説すると共に、リストラとは何かについて詳しく解説していきます。
リストラとは、経営悪化などの原因により事業を再構築することを言います。
そういう意味では、整理解雇はリストラの手段の一つであります。
リストラの手段としては、整理解雇の他にも希望退職者を募集したり、新規の採用を止めたり、有期の雇用契約も契約満了に対する再雇用を行わないようにします。
また、会社の中の不採算部門を整理したり、人件費だけでなくその他の経費を削減したりすることもリストラの一つです。
リストラにより従業員を退職させる具体的な方法
リストラにより従業員を退職させるには、二つの方法があります。
一つは退職勧告によるリストラ、もう一つは希望退職者募集によるリストラです。
退職勧告によるリストラは、辞めて欲しい人だけに個別に退職についての話を進めることができます。
また、リストラの話を社内全体に話さずに辞めて欲しい人だけに話をするため、大っぴらにリストラの話を避けることができるのです。
しかし、退職勧告で退職に応じない場合は、整理解雇に進むことが考えられ不当解雇と判断されるリスクが高くなります。
さらに、個別にリストラを進めていることが他の従業員に漏れた場合、会社に対する不信感が大きくなる恐れがあります。
希望退職者募集によるリストラは、退職勧告によるリストラに比べて法的なリスクが少ないことが特徴です。
退職勧告によるリストラで退職に応じない場合は、基本的には整理解雇に進んでいくため不当解雇と訴えられるリスクが高くなります。
一方、希望退職者募集によるリストラは、あくまでも従業員の希望による退職のため不当解雇になることはありえません。
そのため、法的なリスクが少ないというメリットがあるのです。
しかし、希望退職者募集によるリストラは、基本的には退職金を割り増しして払うなどの金銭的な負担が大きくなるというデメリットがあります。
さらに、あくまでも従業員の希望により退職者を募るため、会社にとって辞めて欲しくない人まで応募するリスクもあるのです。
その他にも、予定していた以上の従業員が希望退職者に応募する可能性もありますので、その時の対応も考慮しておく必要があります。
従業員の整理解雇と懲戒解雇との違い
解雇の種類には、会社の経営悪化による整理解雇の他にも普通解雇や懲戒解雇があります。
普通解雇
普通解雇とは、問題行動や就業規則違反などは犯していない場合の解雇のことです。
普通解雇の具体例としては以下のような理由での解雇になります。
- 従業員の能力不足を理由とする解雇
- 従業員の成績不良を理由とする解雇
- 病気やけがによる長期の欠勤を理由とする解雇
- 協調性が欠如しているための解雇
会社の経営悪化のための整理解雇も問題行動や就業規則違反などとは関係がないため、普通解雇の一つとして分類される場合もあります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、問題行動や就業規則違反などを犯した場合に行う解雇のことです。
懲戒解雇を行うには就業規則に懲戒解雇となる事由を記載しておく必要があり、その事由以外では懲戒解雇を行うことができません。
即ち懲戒解雇とは些細な理由では認めらず、労働者に極めて重大な問題があった場合だけに行われる解雇なのです。
懲戒解雇の具体例としては以下のような理由での解雇になります。
無断欠勤を繰り返したことを事由とする解雇
ただ休暇が多いだけでは、懲戒解雇としてはなかなか認められないケースが多いようです。
欠勤を繰り返すだけでなく、無断で欠勤を繰り返し出勤の督促にも応じないケースなど重大な事由が必要です。
また、度重なる遅刻や早退や欠勤のため、訓告や減給などの懲戒処分を受けても改善されない場合なども考えられます。
横領などの不正行為を事由とする解雇
事業場内で窃盗や横領や傷害などの刑法犯に該当するような行為があった場合は、懲戒解雇が認められる可能性が高いです。
その他の不正行為としては、賭博などの行為によって職場の規律や職場環境を乱した場合などが考えられます。
転勤や配置転換を拒否するなどの業務命令に従わなかったことを事由とする解雇
転勤や配置転換を拒否することは、業務命令違反になりますので良いことではありません。
しかし、転勤や配置転換が従業員にとって不利益になる場合もありますので、一概に従わなかったからといって解雇をするのは不当解雇と判断されるケースもあります。
転勤や配置転換を拒否した従業員の懲戒解雇を行った場合、不当解雇と判断されないためには以下が重要なポイントになります。
- 就業規則や労働契約書などに、転勤や配置転換を伴う人事異動を命令する根拠規定があるか。
- 転勤や配置転換を伴う命令が業務上の必要性があるか。また合理的でありかつ不当な動機はないか。
- 従業員側から見て重大な不利益がないか。
セクハラ行為やパワハラ行為を行ったことを事由とする解雇
セクハラ行為やパワハラ行為が懲戒解雇になるには、程度が著しいかどうかが争点になります。
この程度についても何が著しく何が著しくないのかは、大変難しい判断になります。
経歴詐称をしていた場合の解雇
会社に虚偽の経歴を申告した場合に、懲戒解雇になる可能性があります。
例えば、業務を行うのに必ず必要である資格や免許などを、持っていないのに持っているように申告をしていた場合です。
このような重大な経歴詐称が採用の決め手になっていた場合などは、解雇の対象になります。
しかし、特に業務や採用に関係のないちょっとした経歴詐称については、懲戒解雇にまではいかないケースもあります。
整理解雇と懲戒解雇との解雇予告義務の違い
労働基準法上で会社が従業員に対して解雇を行うためには、解雇をしようとしている従業員に対して30日前までに解雇の予告をする必要があるとされています。
また、解雇予告を行わないで従業員を解雇する場合には、解雇予告手当として最低でも30日分の平均賃金を支払う必要があります。
例えば、従業員を解雇しようとする日まで30日を切っている場合は、解雇予告をした上で不足している日数以上分の解雇予告手当を支払わなければなりません。
整理解雇の場合は会社都合の解雇のため、解雇しようとする日まで30日を切っているというケースはあまりないと思われます。
そのため、整理解雇をしようとしている従業員に対して30日前までに解雇の予告をしなければなりません。
また、労働基準法では、従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合と天災地変等により事業の継続が不可能となった場合には事前に労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受ければ解雇予告が不要です。
懲戒解雇の場合はほとんどが従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合にあてはまりますので、事前に労働基準監督署長に解雇予告除外認定を受けていれば解雇予告や解雇予告手当が不要です。
整理解雇と懲戒解雇との退職金の支給についての違い
整理解雇による退職の場合は、基本的には就業規則の退職金規定に定められている退職金が支給されます。
一方、懲戒解雇による退職の場合は、ほとんどの会社の退職金規定に退職金を支給しないことや退職金を減額することが明記されています。
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従業員の整理解雇の手順
実際に整理解雇を行う前に、まずは整理解雇以外の方法で人員削減をすることが求められます。
具体的には、派遣社員や契約社員の削減や、希望退職者の募集などです。
それでも人員削減ができなかった場合に、整理解雇を行います。
実際に整理解雇を行う時の手順は、通常の解雇と異なることあります。
以下は具体的な整理解雇の手順になります。
解雇基準の決定
解雇人数の決定
どのくらいの人数が経営を健全化するために余剰になっているかを判断し、決定していきます。
整理解雇の人数が少なければ整理解雇を繰り返す恐れがあり、多すぎると売り上げ増加に転じた時に円滑に対応できなくなります。
対象者の範囲の決定
整理解雇は会社都合の解雇のため、対象者の範囲を決めるには慎重にならざるを得ません。
退職によって従業員は、経済的に大きな打撃を受けることになります。
特に、扶養家族が多い従業員などは、多くの人が会社の整理解雇の影響を受けます。
これらの状況も考慮して決定しなければなりません。
ただし、会社も再建のためには、優秀な人材は温存しておく必要があるのです。
そのため、解雇によって受ける経済的な打撃が割りと小さい従業員や、能力が比較的不足している従業員や、会社への貢献度が比較的少ない従業員が対象者になります。
以上のことを考慮して解雇対象者を決定するには、対象者の範囲は以下の基準などにより決定されることが考えられます。
- 年齢を基準として決定する
- 勤続年数を基準として決定する
- 扶養家族の有無を基準として決定する
- 特定の職種を対象として決定する
しかし、一定の基準で決定すると、会社の再建に必要な人材まで対象者に含まれる可能性があります。
そのため、一定の基準を設ける場合でも、「ただし、業務を遂行するために必要な人材は除く」などの除外条件を付けると良いでしょう。
解雇日の決定
実際に解雇をする日を決定します。
退職金の決定
退職金については就業規則の退職金規定に記載された条件により支払いをするか、所定の退職金に上積みを行うか2つの方法があります。
解雇対象者の決定
解雇基準が決まったら、実際に解雇する対象者を決定します。
決定された基準の中でも解雇される従業員とされない従業員が存在する場合は、後々のトラブルに発展させないためにもその理由をはっきりさせておく必要があります。
解雇する従業員や労働組合との協議
整理解雇の対象になった従業員にはもちろんですが、労働組合にも整理解雇の必要性と内容について誠意を持って協議をし理解を求める必要があります。
従業員にも労働組合とも十分な協議をして納得してもらわなければ、トラブルの原因にもなりかねません。
解雇予告または解雇予告手当の支払い
労働基準法第20条では、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならな」と規定されています。
そのため、整理解雇を行う場合は、解雇をする日の30日以上前に解雇予告をする必要があります。
また、整理解雇の日の30日前までに解雇予告ができない場合は、30日分以上の平均賃金を払います。
解雇辞令の交付
整理解雇を行う日に、解雇対象者に対して解雇辞令が交付されます。
これにより、整理解雇を行う会社と解雇対象者の間の雇用契約は、完全に解除されます。
退職金の支払い
退職金は、あらかじめ決められた日に支払いが行われます。
退職の手続き
解雇対象者に対して以下の退職手続きを行います。
- 雇用保険被保険者資格喪失届を公共職業安定所に提出する
- 離職票を本人に交付する
- 厚生年金・健康保険被保険者資格喪失届を社会保険事務所に提出する
- 年金手帳を本人に返却する
まとめ
このように整理解雇とは、会社の経営悪化などが原因で行われる解雇のことです。
整理解雇が無効にならないためには、以下の4つの要件をすべて満たせば良いと言われています。
- 人員削減が経営上必要であること
- 経費削減などの解雇を回避する努力を尽くしたこと
- 解雇される退職者の選定方法が合理的であること
- 解雇対象者や組合などに十分に説明し協議したこと
整理解雇はあくまでも会社の都合のによる解雇のため、後々にトラブルにならないためにも誠意を持って納得してもらえるまできちんと協議をすることが大切です。
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