人事や経営者をしていると、
「新型感染症の影響で売り上げがない。このまま人件費などの固定費ばかりが出ていくと会社が持たない」
「経営が苦しい。この際、やる気のない社員や売り上げに貢献できていない従業員はリストラしたい。赤字の事業部も清算してしまいたい。リストラをするとトラブルに発展するのだろうか」
と気になりませんか。
結論から申し上げますと、解雇ではなく社員の自主的な意思表示をしてもらい、解雇ではなく自主退職をお願いする形を採用することが最もリスクが低く時間もお金もかからない方法ということになります。
リストラを解雇という形で、社員を強制的に解雇をする方法を採用してしまうと、不当解雇となり裁判移行時や労働組合とのトラブルに発展する可能性があります。
ただ、解雇という方法を選ぶことも条件によっては不可能ではありません。解雇を選ぶ場合には相当の手間と根気が必要となります。
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従業員をスムーズに解雇する方法(退職勧奨によるリストラの方法)について
この記事を読めば、退職勧奨によるスムーズなリストラの方法について理解することができ、法律的なトラブルを避けることができます。
退職勧奨について検討している方は、ぜひ、最後まで読んでいって下さいね。
従業員の解雇と退職勧奨(自主退職)の大きな違い
解雇と退職勧奨(自主退職)には決定的な違いがあります。
解雇は会社側が社員に対して一方的な理由で、雇用関係を終了するということです。
退職勧奨は社員に会社がお願いする形で退職のお願いをして、社員の方から会社に対して「会社を辞めます」と伝えてもらう行為になります。
特にリストラを考えた場合、解雇を行うと会社側からの一方的な雇用関係の終了ということでトラブルに発展しやすくなります。
退職勧奨と解雇は紙一重。解雇は簡単にはできない。解雇ではなく退職勧奨を行い自主退職を選択してもらおう
日本において従業員の解雇は簡単にはできません。
理由として、日本の労働契約法・労働基準法は従業員を解雇することを前提とした作りになっていないためです。
特に正社員に関しては定年を迎える日まで雇用されることがほぼ前提となっているため、定年を迎える日までに強制的に雇用関係を終了させることは難しいといえます。
解雇によるリストラではなく退職勧奨による自主退職を目指すことが一番安全な方法であるといえます。
また、従業員を解雇するためには、労働契約法16条で定められている以下の条文を守ったうえで解雇する必要性があります。
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
参考:労働契約法16条
労働契約法16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
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客観的に合理的な理由の証明が非常に難しく、解雇が有効になるケースは非常に少ない傾向にあります。
経営者が裁判官に解雇無効を認めてもらうためには誰に聞いてもこの解雇は仕方がないというケースに限られます。
本人の仕事のやる気が感じられないといったレベルのものではなかなか解雇を認めてもらえませんし、経営が少し苦しいというレベルでは認めてもらえる可能性が低くなります。
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従業員のリストラとは?リストラをする前に必ずやっておくべきこと
リストラとは事業再生を意味する言葉であり、文字通り企業を再度活性化するために行われるコストカット手段のことを指します。
日本ではリストラは社員の解雇というイメージが強いですが、事業全体を見渡して不要な人材をはっきりとさせ企業が生き返る道を模索するための手段の1つが人員削減となります。
つまり、労働裁判などに持ち込まれた場合に「わざわざ難しい正社員解雇を強引に進めるのではなく他の方法がいくらでもあったのでは」と裁判官に思われたら負けということです。
他に従業員をリストラする以外には事業再生の道はなかった、と裁判官に判断してもらえるほどの材料を用意する必要性があります。
そのため、解雇を会社が断行する場合、会社として出来ることは全てやった!もうこれ以上問題点として攻撃されることはない!というくらい徹底しておく必要性があります。
社員のリストラを解雇という手段で行う場合、以下の4要件を満たす必要性があります。
- 経営上の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 労使間の協議
全ての要件を満たすことは非常に困難であり、会社が倒産してしまう寸前か、会社が天変地異災害にあって建物ごと倒壊してしまったというレベルでなければなかなか解雇が認められないのが現状です。
しかしながらリストラを考えたら必ず4要件を満たすための準備を整える必要性があります。
仮に退職勧奨で自主退職をお願いする形を採用したとしても労働紛争に発展した場合、裁判所に「これは退職勧奨を装った不当解雇だ!」と認定されてしまう可能性があるためです。
そうなれば社員の復職が起こるだけではなく社員に対して損害賠償請求が認められ大きな損失となる可能性があります。
会社が行った退職勧奨が仮に裁判所で不当解雇だと解雇方面で争われることになったとしても「解雇無効」ではなく「解雇有効」だと思われた方が損失が少なくなります。
以下のような準備行動は必ず行うようにしましょう。
- 社員をリストラせざるを得ないなどの会社の経営状況を記した帳簿等の準備(経営上の必要性)
- 新規採用の停止と社内の全事業所の非正規社員の雇い止めの決行(解雇回避の努力)
- 勤続年数や年齢による解雇対象の選別理由をハッキリさせる(人選の合理性)
- 労働組合との話し合い(労使間の協議)
それぞれについて解説します。
社員をリストラせざるを得ないなどの会社の経営状況を記した帳簿等の準備(経営上の必要性)
社員をリストラせざるを得なかったなどの会社の経営状況を記した帳簿などはしっかりと準備しておきましょう。
理由として、数字で赤字部門の説明や固定費を削減しないと何年以内に倒産する可能性があるといったデータがないとリストラをする大義名分が立たないばかりか裁判等で不利になる可能性があるためです。
特に経営に関する帳簿はしっかりとまとめるようにしましょう。
情報漏洩などのリスクがある場合や社内で経理に任せるのが不安だという場合は外部の会計士や税理士などに試算をしてもらうことも有効な手段です。
社内にベテランの財務担当不在の場合は外部の専門家に任せる方が安心です。
新規採用の停止と社内の全事業所の非正規社員の雇い止めの決行(解雇回避の努力)
リストラを行いたい、と考えた場合には必ず新規採用を停止または抑制するようにしましょう。
理由として、裁判所に「まだ新卒採用や中途採用を通常通りしているのになぜリストラをする必要があるんだ」と労働裁判などに至った場合にそのリストラ手法以前に経営状態について疑問を持たれるためです。
採用も考えられないほど経営状態が悪いということでなければリストラ断行は難しいといえます。
同時に社内の全事業所の非正規社員の雇い止めは必ず行っておきましょう。
具体的には、契約社員や派遣社員、パートアルバイトの契約更新を止めることです。
非正規雇用を契約更新する資金力があるのに正社員という最も労働法上保護されるべき雇用形態の社員を解雇することは矛盾を生みます。
裁判所の判断においても、まずは社内の非正規従業員を全て雇い止めしたかどうかは問われる傾向にあるため、正社員のリストラを思い立ったらまずは会社内の非正規雇用の人数や契約更新時期などを確認するようにしましょう。
非正規雇用の方たちを雇い止めする場合もいきなりの雇い止めは難しいこともあるため、できれば弁護士等の中でも労働契約に詳しい弁護士に依頼して契約更新の頻度や内容についてはチェックしてもらうことをおすすめします。
契約更新の回数によっては雇い止めできないケースも多々ありますが、リストラのために雇い止め出来ない人を無理やりリストラするとまた新たな労働トラブルを抱える可能性が大きくなります。
出来ない雇い止めは無理にしないという判断をするためにも、出来るだけ労働に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。
非正規社員の雇い止めも実は正社員同様に非常に高いハードルが存在するケースも多々あります。
勤続年数や年齢による解雇対象の選別理由をハッキリさせる(人選の合理性)
なぜその人を辞めさせたいのか、あるいは辞めさせたいのかは必ずハッキリさせておきましょう。
曖昧で根拠のない理由で解雇や退職勧奨の対象に入っていたということになるとかなり危険です。
「根拠もないのに社員をリストラしようとしていたのか。リストラした理由はなんだハッキリ答えろ!」など労働組合などに一番突っ込まれる点です。
必ず理屈を持って人員整理の対象は選ぶようにしましょう。
勤続年数や年齢を理由としたものだけではなく、在籍部門が慢性的に赤字など根拠を持つことは絶対に必要となってきます。
労働組合との話し合い(労使間の協議)
労働組合との話し合いは必ず徹底するようにしましょう。
労働組合のない会社の場合は36協定の届にサインしている労働者代表との話し合いでも問題ありません。
理由として労使間の話し合いが不十分な状態で解雇をした場合、会社側が非常に不利な立場となるためです。
労働関係の法律は労使間が対等に徹底的に話し合いをすることを求めています。
「いくら話し合っても労働組合が納得してくれない」と根負けするのではなく徹底的に何度もしつこく話し合いをして十分誠意を尽くしたという状態にしておきましょう。
誠意をもって団体交渉に5回以上程度参加し、話し合いを尽くしたという状態になれば、最終的には労働組合との合意形成がなくともリストラをすること自体は可能となります。
最も避けたいのは裁判開始と同時に労働組合との消耗戦を繰り広げることです。
裁判と労働組合による話し合い(団体交渉)は並行しても良いことになっています。
仮に労働組合との話し合いを十分に尽くしたという状態でなければ裁判を抱えながら労働組合の対応もしなければならないという精神的にも肉体的にもタフな仕事をすることになります。
また、社内の労働組合だけで話が収まっている場合は良いですが、退職した社員の多くはユニオンに加入します。
「普段から労働組合の話し合いなんて人事に任せてるから大丈夫だろう」と高を括る経営者の方も非常に多いですが、ユニオンは会社の経営事情など関係なく争いをしかけます。
また、労働法や労働契約法の知識などは社内労組以上に詳しいと考えて差し支えありません。
仮に労働基準法や労働契約法に自信がない場合、必ず労働に詳しい弁護士に依頼をして団体交渉への出席や組合への答弁書作成などは弁護士に初期段階で依頼してしまうようにしましょう。
途中から弁護士が団体交渉に参加することになると「すでにもう不利なことを話してしまっている」という状態からスタートしてしまうことも多いです。
出来れば普段から顧問契約をして馴染みのある弁護士を相談役に迎えておくことをおすすめします。
信頼できる法律家と普段から良好な関係を築くことは、結果的には安定経営をもたらします。
また、仮に人事部に経験何十年というベテランがいたとしても顧問契約はしておきましょう。
人事部員は労働法や判例集などを読んで自主的に勉強する傾向にありますが、最後に裁判まで問題がもつれ込んでしまった場合、最初に細かく弁護士と相談しておいた方が良かったとなるケースもあるためです。
従業員を解雇するのではなく、退職を促し自主的に退職してもらうことが重要
社員を解雇することが法的に難しい関係上、社員に対して自主的に退職してもらう必要性があります。
社員が納得して自主的に退職をすることを選んでくれれば、トラブルに発展するリスクも非常に少なくなるためです。
特に正社員に関しては解雇をすることが非常に難しくなっているため、安全にリストラを行うためにも退職勧奨で自主的に退職をしてもらう方向を選ぶようにしましょう。
従業員の退職勧奨によるリストラで使える4つの方法
「どうすれば社員との衝突を避けてリストラを敢行することができるのだろうか」と気になりませんか。
退職勧奨で解雇とされないためには本人の退職の意思表示をできるだけスムーズに引き出す必要性があります。
退職勧奨によるリストラで使える4つの方法があります。
- 個別で社員に退職を促す方法
- 僻地への異動を打診
- 降格によりモチベーションダウンを誘う方法
- リモートワーク移行時に給与に直結する評価を下げて退職を誘う
それぞれについて解説します。
個別で社員に退職を促す方法
最も多い退職勧奨の方法としてはリストラ候補者をリストアップしておき、退職してくれないかとお願いする方法です。
個別に社員に対して退職のお願いをするため、確実に会社側の「あなたには会社を辞めてもらいたい」という意向を伝えることができます。
メリットとしては、確実に辞めて欲しい社員に対して狙い撃ちで退職勧奨を行える点です。
他の方法として希望退職を募るといった方法がありますが、希望退職を募るとおおむね転職できる自信がある優秀な社員から順番に希望退職に応募する傾向にあります。
本当に辞めて欲しい社員ほど定年まで企業に居座り、将来を嘱望される若手のホープが率先して退職していくという本末転倒な状況が起こる可能性が高いのです。
デメリットとしては何度も退職勧奨を行うと、自主退職ではなく解雇するために「経営者が労働者を自己都合退職へと誘導をした」と裁判になった際に判定される可能性があることです。
本人が退職をしやすいように出来るだけ金銭的な条件を良くした上で自己都合退職をしてもらえるように退職金を大きく積むなどの交換条件を設けるようにしましょう。
僻地への異動を打診
僻地への異動を打診するなどして「会社は私に退職して欲しいと暗に示しているんだな」と思ってもらうことも重要です。
特に海外に支社があるのであれば、海外への異動打診なども決定打となることがあります。
高齢者の社員にこれから海外へ異動して欲しいと伝えるとそこで気力が尽きる人も多くいます。
「すぐにでも辞めてもらわないと経営が苦しいのに」と思われるかも知れませんが、急がば回れといった側面もあります。
自己都合で退職をしてもらうために退職勧奨を行うのと手間は同じだといえます。
降格によりモチベーションダウンを誘う方法
極端な降格も法律上、問題が出てくる可能性はあります。
ただし、昇格や降格に関しては企業内における裁量が広く認められる部分であり、裁判所も広く権利を認めています。
特に退職して欲しいと思う社員はその会社ではもう評価を上げたり、維持する理由もないというケースが大半ではないでしょうか。
降格によるモチベーションダウンによって自己都合退職を勝ち取る道を模索してみましょう。
リモートワーク移行時に給与に直結する評価を下げて退職を誘う
せっかくリモートワークに移行したのに仕事がないという社員の給与に直結する人事考課を下げて、自主退職を促す方法があります。
新型感染症の影響で仕事がなくなりリモートワークに移行した結果、社員が「思ったほど仕事をしていなかった。とんでもない社員だった」と発覚するケースもあるためです。
まだ会社に出勤している状態だったときは仕事をしているように見えていたが、リモートワークになると成果物が出てこないというようなタイプの社員です。
会社側にもある程度は社員に仕事を与える義務がありますが、いわゆる社内ニートのような状態になっている社員を雇用し続けることにはリスクがあります。
仕事をしていなくても仕事をしているフリをしていればクビにならない、と思い込んだ社員が生産性を取り戻す可能性は0に近いのではないでしょうか。
他にも同じような社員が現れかねません。
リモートワーク移行時に全社員の業務内容をチェックし、芳しくない場合には適正な評価をつけて出来るだけ退職するように促すことも大切です。
⇒元従業員の労働審判を解決する方法を見る!
従業員の退職は本人の意思でを徹底しよう
リストラを進める場合、退職は本人の意志だったことをしっかりと証拠に残すため、必ず退職願を提出してもらうようにしましょう。
また、本人が退職勧奨を受けた際に「解雇にして欲しい」と伝えてきた場合は警戒をしましょう。
解雇になると会社都合退職となり、退職勧奨ではなく解雇をしたということになります。
出来るだけ本人が納得する形での退職を行い会社都合退職ではなく退職勧奨による自己都合退職をお願いするようにしましょう。