会社を経営する上で直面するトラブルの1つが、従業員による金品の横領・着服といった不正行為です。横領や着服による不正行為は金銭的な損害だけでなく取引先との信頼関係が喪失するなど様々な損害が引き起こされます。
このような不正行為を防止するにはどうすれば良いのでしょうか。また実際に不正が発覚した時はどのような対応を取るべきなのか詳しく解説していきます。
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従業員の横領・不正の実態
従業員による横領や不正にはある程度決まったパターンがあります。横領の主な手口と、横領を働きやすい従業員の特徴を、実際に起こった事件の判例を踏まえてご紹介します。
実際に起こった事件の判例
まず、実際に起こった横領・不正行為の裁判例をご紹介します。どのような事例があるか見ていきましょう。
事例
名古屋市介護施設の経理担当者が、合計1千万円を横領した事件。 施設名義の口座から自己名義の口座へ常習的に横領していた。横領した金銭はSNS上で知り合った外国人に 好意を抱き来日費用などを立て替えるなどをして送金した。
(R1.6.3 業務上横領事件 名古屋地方裁判所)
事例
県職員が部署異動の際に業務上預かり保管したプール金800万円を自己名義の口座に入金し横領した事件。株式購入代金や証券取引、ゴルフクラブ会員権購入の費用、友人らとの友好費等に消費するなどした。
(H16.11.24 業務上横領事件 静岡地方裁判所)
事例
学校の理事長が預金小切手1億3500万円、学校の現金合計3千万円を業務上預かり保管中に横領・着服した。長期的に着服横領を繰り返し自らの生活費や友好費、交際費に当てていた 。
(H18.2.24 業務上横領被告事件 仙台地方裁判所)
ここでご紹介した事例は過去の裁判例の中のほんの一部で、いずれも数百万から1億円を超える巨額な横領です。横領を行う従業員の多くは一度に巨額の横領をするのではなく長期にわたり何度も横領・着服を繰り返した結果、額が膨らみ不正が発覚するパターンが多いです。
従業員の横領・不正の主な手口
会社の資産を横領する従業員はどのような手口で不正を働くのか、よくある事例を4つご紹介します。
現金の抜き取り
小口現金やレジ現金をそのまま抜き取るケースです。架空の経費で領収書を発行し処理する他、伝票を破棄し売上分を横領するケースも見られます。
預金を引き出し着服
切手や印紙の購入などを口実に事務所の口座から預金を引き出し着服するケースです。
自己名義の口座へ送金
事務所名義の口座から自己名義の口座へ直接送金するケースです。このケースは何度も繰り返すことが多く、1度の送金額は少なくても長期にわたり横領することで巨額となりやすいです。
仕入れ代金を水増し請求して仕入れ先と山分け
仕入先と共謀し本来の額よりも高い請求書を発行させ、水増し分を横領するケースです。横領した金額の一部は共謀した仕入先の個人口座にキックバックさせます。
横領・不正をしやすい従業員の特徴
横領や着服に関して、不正行為を働きやすい従業員の役職や立場があります。どのような役職にある従業員が不正行為を働きやすいのか立場別に見ていきましょう。
店長・支店長クラス
典型的なパターンが複数店舗展開している飲食店や小売店の店長が、店の売り上げから現金を横領するケースです。業種別では美容院、エステサロン、ネイルサロン、整骨院などのサービス業で発生しやすい傾向にあります。
後者では現金ではなく店舗で保管されている商品、切手などを横領して外で換金することが多いです。 これら店長クラスの横領は金額が多額であることも多く、経済的な損害が大きくなります。
取締役や共同経営者
会社経営のトップである地位を利用して横領するケースが多いです。よくあるパターンとして、複数会社を経営している場合は自己が経営する他社への送金、経理従業員へ指示して自己名義の口座への送金などが挙げられます。
取締役や共同経営者は会社の資産へ直接手を出しやすいことや、人脈や社内での権力を利用できることから、損害額が億を超えることもあり、企業としての被害は甚大です。
集金業務の担当者
不動産賃貸業や小売業など顧客から現金を集金する業種で起こりやすいのが特徴です。よくあるパターンは顧客から集金した現金を会社には未収であると報告するケースや、顧客の存在を会社に隠して無断で商品を持ち出しその代金を横領するケースです。
経理社員
給与の支給や経費の精算担当者が、従業員への給与支給額や経費精算額を水増しして出金し、水増し分を横領するケースです。給与支給や経費精算を現金で対応している会社に多いのが特徴です。
よくある手口として、架空の請求書を作り自己名義の銀行口座へ送金し着服・横領します。 出入金を担当する従業員にある横領は長期間にわたり何度も繰り返していることが多く、横領金額も多額になりやすいです。
購買発注担当者
架空の仕入先や発注先に対して代金支払いを装い自己名義の銀行口座へ送金し横領するケースが多いです。また、仕入先や発注先と共謀し通常より高い値段を請求させて、リベートを受け取るケースもあります。
このように横領しやすい従業員の特徴を見てみると、会社のお金を自由に扱える環境にある者が、横領・着服をしやすい傾向にあります。
従業員の横領・不正の類型と対策方法
また、従業員による横領や不正には発生しやすい環境というものがあります。 どのような職場環境で従業員による横領が発生するのでしょうか。従業員による横領や不正の起こりやすい職場環境の以下のような特徴があります。
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従業員の横領・不正の起こりやすい職場環境
・経理担当者が1人で預金を引き出せる環境
・小口現金の帳簿の残高と現金の額の一致確認を毎日しない
・通帳の出金履歴を定期的にしていない
・小売店舗の場合で当日の売上を預金口座へ入金しない
この4つの特徴に共通しているのは現金や預金を管理している担当者が1人しかいないこと、出入金の履歴や残高の確認をこまめにしていないことです。
不正防止策として、金品の扱いには依頼・承認制度を導入して必ず2人以上が関与するように業務内容を改善しましょう。入金する際は伝票に支払先、支払金額、支払内容を記載し、且つ上長の承認印がある場合のみ出入金を認める等のルールを徹底することも大事です。
従業員の横領・不正への対応方法
では実際に従業員による横領不正の疑いが出た時、まず事実調査を行いその調査結果の元従業員の処分方法を決定します。具体的にどういった行動が必要になるのか見ていきましょう。
従業員による横領・不正の事実調査
まずは従業員による横領・不正が事実であるかどうかの調査を行います。社内で関係者から聞き取り調査をして証拠となる資料を集めます。この時に刑事事件として告訴するかどうかあらかじめ方針を決めておくことをお勧めします。
その理由は、不正を働いた従業員本人が横領の事実を認めていても裁判時に「横領していない」と主張を翻すことがよくあるからです。そのため刑事事件へ発展させる場合は、集めた証拠が裁判で有力な証拠となるかどうか非常に重要となるので、刑事裁判として告訴する時の証拠集めは慎重に行う必要があります。
横領・不正を行った従業員の処分方法
事実調査の確認後は不正を行った従業員へ処分を下します。 従業員の対応には大きく分けて4つあります。
・横領金の返済を受けて示談に応じる
・横領・不正を働いた従業員を懲戒処分する
・横領・不正による損害の損害賠償請求をする
・刑事事件として告訴する
これらの処分はどれか1つに限定する必要はなく 、損害賠償請求をした上で懲戒処分することや、示談以外の処分を全て選択することも可能です。
これら4つの対応方法については、具体的な処分方法、処分時のポイント、メリットなど後で詳しく解説していくのでそちらを参考にしてください。
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従業員の横領・不正の証拠集め方法
どのような処分を下すにしてもまずは横領・不正の事実確認と証拠集めが必要となります。 具体的な証拠の集め方や有効となる証拠例をご紹介するので参考にしてください。
不正の証拠集め方法
従業員による横領・不正の証拠を集める場合は主に以下の流れで進めていきます。
社内対策チームを設立
社内で従業員による横領や不正が疑われる事態が発生した場合、迅速な事実確認を行うためにも対策チームを設立します。担当メンバーは情報漏洩防止のために必要最低限で構成し 、スムーズな意思決定や情報共有を行える人選にしましょう。
同僚や関係者、通報者からの聞き取り
同僚や関係者から聞き取り調査を行い 事実確認をします。聞き取り調査をする時はむやみに調査することは避け、調査対象の人選や調査内容の順序を慎重に検討します。聞き込み調査の対象が横領不正行為を働いた従業員と繋がっていた場合、嘘の内容を伝えられたり、証拠隠蔽されてしまう可能性があるので注意が必要です。
内部通報により不正が発覚した場合は通報者とコンタクトを取りヒアリングを行います。内部通報による発覚は社内窓口と社外窓口どちらの場合も匿名であることが多いです。
内部通報者とコンタクトが取れない場合は弁護士事務所を介して匿名性を保ったまま調査を進めることも可能です。どうしても匿名のままでは調査に限界がある場合、通報者に匿名解除をしてもらう必要があります。
匿名解除により内部通報者に不利益がないことを理解してもらい、調査協力をあおぎましょう。通報者へのヒアリングはできるだけ具体的に行い、横領・不正の内容や時期を特定します。
証拠集め
不正内容や不正時期の目星がついたら客観的な証拠を集めます。この時に集めた証拠は、懲戒処分、損害賠償請求、刑事告訴の時の判断材料となるためとても重要です。証拠となる書類の破棄や従業員同士で口裏を合わせて事実を隠蔽されることがないように慎重に行いましょう。
横領の事実が確定した場合や、横領の可能性が極めて高い場合には、不正をした従業員に対して自宅待機を命じることも有効です。証拠集めの妨げや、他の従業員と口裏を合わせること、更なる横領行為を防止する効果を期待できます。
証拠保全
聞き込み調査や証拠集めにより証拠物を集めることができたら適切な保全措置を講じます。 保全措置を講じなかった場合、証拠となる伝票や帳票類その他の重要書類を横領したとされる従業員に改ざんされる恐れがあります。
特に、問題となっている従業員の業務用パソコンはeメールやインターネットのアクセスログなど証拠として価値が高いものが残っている可能性があるので、早期回収をし保全するように動きましょう。
対策チームによる不正の検証
集めた証拠に基づいて社内対策チームで横領・不正に関する検証を行います。検証する際には証拠として回収したパソコンの解析、社内外の関係者への取材、行動監視なども検証する必要があるため、顧問弁護士や調査会社に依頼して検証を進めます。
本人への聞き取り調査
一通りの証拠が集まったら横領の疑いのある従業員本人へ聞き取り調査を行います。この聞き取り調査の目的は横領不正の事実を認めさせることです。客観的な情報を集め、十分な準備をしてから聞き取りを行いましょう。
聞き取り調査の内容も後の処分の判断材料となります 。言った言わないの水掛け論にならないように以下のポイントを押さえておきましょう。
聞き取り調査で気をつけるポイント
・証拠隠蔽防止のため聞き取り調査の予告はしない
・聞き取り内容はボイスレコーダーで録音し議事録に直す
・弁護士など第三者に立会いをしてもらい従業員の事実否定に対して冷静な言葉を投げてもらう
・横領の事実を認めた場合、いつ(When)、どこで(Where)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)といった5W1Hを明確にする
・その場で始末書を書かせる
従業員の横領・不正の有効な証拠例
集めた証拠をもとに刑事事件として告訴する場合には、 横領や不正行為が客観的に明らかである必要があります。どのような証拠が裁判時に証拠として有効であると認められるのか例を見ていきましょう。
事実調査で明らかになった証拠
銀行に保管されている出金・送金伝票の写し
会社の預金口座から自己名義の銀行口座へ不正に送金し横領している場合は、銀行に保管されている出金・送金伝票の写しが重要な証拠になります。伝票には横領した従業員本人の筆跡があるため横領の事実証明として非常に有効です。
架空の発注書、契約書、領収書の原本
会社から現金を引き出して横領している場合は、架空の発注書や領収書などを会社に提出していることが多いです。架空の書類の提出者が横領の疑いのある従業員本人であることも事実として確認できている時は、横領の事実を証明する十分な証拠となります。
従業員が横領の事実を認めている時
支払誓約書
横領不正のある従業員へ聞き取り調査を行った際に横領を認めた場合は。必ず支払誓約書を取得しておきましょう。「本人が横領の事実を認めた文書」となるため、裁判前の起訴の判断材料となる他、裁判中に本人が事実を否定した時にも重要な証拠となります。
従業員が横領の事実を認めていない時
事情聴取の弁明書・議事録
聞き取り調査を行った際に横領の事実を認めていない場合でも、その言い分に関する弁明書を本人に作成・提出させましょう。また、事情聴取の議事録も本人に内容確認させて署名、押印をもらっておきます。
これらの資料は本人が嘘の弁明をしていたり、後の弁明で辻褄が合わなくなることの証拠となり得えます。不正が事実であった際に嘘の弁明を立証するための重要な証拠となるため、横領の事実を否定する内容でもしっかりと記録を残しておきましょう。
従業員の横領・不正の責任追求方法
従業員の横領不正が明らかになった後は、その責任をどのように処理するべきでしょうか。不正を行った従業員の処分方法でもご紹介した通り大きく分けて四つの方法があります。
・従業員からの示談に応じる
・懲役処分する
・損害賠償請求をする
・刑事事件として告訴する
それぞれ具体的にどのような対応をするか詳しく見ていきましょう。
従業員からの示談に応じる
従業員の横領や不正が発覚し責任追及を進める場合、横領を行った従業員から損害を賠償する示談を持ちかけられることが考えられます。刑事事件として告訴している場合でも、刑事裁判が終わるまでに示談が成立していると、執行猶予がついたり服役期間が短くなるなど横領した従業員に大きなメリットがあるためです。
刑事事件として告訴するつもりはなく従業員が大いに反省している場合は示談に応じても良いでしょう。そうではなく、刑事告訴することでしかるべき処分を下し会社として厳しい姿勢を社内外に示したいという場合は、会社側にとってメリットがないため注意が必要です。
懲戒処分する場合
横領・不正をした従業員を懲戒処分する場合、どのような処分方法があるのかご紹介します。
戒告・けん責
戒告・けん責は懲戒処分の中でも最も軽い処分です。従業員に対し指導・警告を行い業務態度の改善を求めるもので、横領した金額が少額であったり損害被害が少ない場合は戒告・けん責で決着させることもあります。
減給
戒告・けん責では処分が軽すぎるという場合は賃金を減額して懲戒処分することもあります。 戒告・けん責と同様に懲戒処分の中では軽い処分となります。
減額できる賃金は法律により範囲が決まっており、横領が1回の場合は1日の賃金額の50%、横領が複数回の場合でも減給できる金額は賃金支払期間の10%です。将来にわたり退職するまで減給できるわけではない点を理解しておきましょう。
出勤停止
出勤停止とは横領した従業員に対して一定期間就労を禁止する処分です。この期間中は無給となり勤続年数にも算入されないため、ある程度重い懲戒処分となります。
不正内容が軽微である場合に出勤停止処分を行うと、内容に対し処分が重すぎるという点で処分内容が争われる可能性があるので注意してください。出勤停止処分と不正行為の均衡が取れているかどうか弁護士に判断を仰ぐなど慎重な行動が必要です。
降格
降格処分とは、社員の役職を剥奪したり役職を下げることです。横領・不正が重大なケースにはこのような処分を下すこともできます。例として、不正を働いたことで部長から課長に降格するなどが挙げられます。降格は従業員の将来に大きな影響を及ぼすためかなり重い処分となります。
論旨解雇・論旨退職
論旨解雇・論旨退職とは、不正を働いた従業員に退職届の提出を促しこの提出がない場合に懲戒解雇する処分です。懲戒処分の中で一番重い懲戒解雇を避けるために自主退職を促すものです。
懲戒解雇
懲戒解雇は懲戒処分の中で最も重い処分です。懲戒解雇の処分が下された従業員は 即失業するだけでなく転職活動にも大きく影響するなど、従業員にとって非常に厳しい状況となります。
なので、この処分の有効性を十分吟味した上で懲戒処分の7原則をもとにして慎重に判断します。また、懲戒解雇の場合も解雇予告や解雇予告手当が必要であることも覚えておきましょう。
懲戒処分の原則
罪刑法定主義の原則
処分の対象となる行為や処分の種類内容を明らかにする必要があり、経営者の主観で処分を実施することはできない。
平等取扱の原則
以前に同様の事案があった場合は当時の処分と同程度の処分内容とし、不当に重い処分を下すことはできない。
一事不再理
対象となる行為に対して重複して処分することはできない。事実調査のために無給で自宅待機を命じた場合、それ自体が懲戒となりその後の懲戒解雇の処分が無効となる可能性がある。
不遡及の原則
就業規則で新たに処分の対象となる行為を定めた場合であっても、その規定は制定後に発生した事案にのみ有効。
個人責任の原則
個人の行為に対して連帯責任を負わせることはできない。
相当性の原則
事案の背景や経緯を考慮し、その処分が社会通念上相当であると認められる場合のみ有効となる。
適正手続の原則
事実関係の十分な調査を行い客観的な証拠を収集する。また本人への弁明の機会を与えて公平な手続きをしなければならない。
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損害賠償請求する場合
横領や着服が発生した時は損害賠償請求する場合が多いでしょう。ここでは損害賠償請求するときのポイントを紹介します。
給料から天引きできるか
原則として損害賠償請求の額を給料から天引きすることはできません。それは労働基準法の「賃金全額払いの原則」によって源泉徴収や社会保険料など法令で認められた控除等以外では賃金の一部を差し引くことが禁止されているからです。
ただ例外として、従業員の同意があれば賃金と損害賠償請求権とを相殺することは可能です。相殺する場合であってもその同意が「労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する」場合のみ認められるため、「労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行わなければならない」と定められています。
つまり対象となる従業員が、会社に脅されたり強制されたりすることなく自らの意思で相殺に応じたことが客観的に明らかであるといえるような事情があり、かつ、その事実を裏付ける証拠が必要となります。
身元保証人に払ってもらえるか
不正行為をした従業員だけでなく身元保証人にも損害賠償請求をできるケースがあります。その従業員を採用する際にその親族との間で身元保証契約を締結し、身元保証人が従業員と連帯して責任を負う合意がある場合です。身元保証人に支払いを請求する場合も以下のポイントを押さえておきましょう。
・ 身元保証契約の有効期間内であること
・ 損害賠償金額の全額を請求できないこともある
身元保証契約は、契約書で期間を定めていない場合は3年、期間を定めている場合でも最長5年と制限されており自動更新は適用されません。
契約書で自動更新について定めたとしても自動更新に関しては無効となるため、契約更新を怠って期限切れとなっている場合は身元保証人に損害賠償請求をすることができないことになります。
また身元保証人の責任の範囲についてはできるだけ限定するように判断されるケースが多いです。会社の監督状況の過失、身元保証契約締結の経緯、締結する際の注意喚起などの事情が考慮されます。
刑事事件として告訴する場合
従業員による横領・不正が巨額の場合は、刑事事件として告訴することも有効な手段です。以下では刑事事件として告訴する時の流れ、告訴する際のポイント、告訴するメリットなどを解説していきます。
刑事事件として裁判にかける場合の流れ
弁護士に相談する
刑事事件として告訴する場合はまず弁護士に依頼をします。弁護士に適切な書類や証拠を準備してもらうことで 警察の協力を得やすくなるので刑事告訴がしやすくなります。弁護士に依頼せず自社で刑事告訴することもできますが警察が積極的に取り合ってくれることは稀なため、ほとんどの場合は弁護士に依頼することになります。
告訴状を警察に提出する
告訴状とは警察に、従業員に対しての処罰を求める書面で、「いつ」、「どのように」、「いくら」横領したかという事実を記載します。
作成には専門知識が必要なため弁護士に依頼をします。 作成した告訴状は警察に郵送しますが、ほとんどの場合はすぐに受理されません。警察は告訴状のコピーを取った上で返送してくるのが一般的です。
警察と打ち合わせをする
告訴状を郵送したら警察に出向いて、どの横領行為を処罰の対象にするかなどの打ち合わせをします。刑事裁判にかけたが無罪になってしまったという状況を避けるために、長期継続して横領をしている場合でも、確実な証拠がある分だけを処罰の対象としたいと警察から言われることが多いです。
告訴の対象を横領行為の確実な証拠がある分のみに変更する場合は、最初に郵送した告訴状の記載内容を修正し提出し直します。
警察が調査する
告訴状が受理されると警察による調査が開始されます。被害者として捜査協力に応じる必要があるため追加で証拠を提出したり被害者としての調書を作成してもらうなど捜査に協力しましょう。
事件を検察庁に送致する
警察による横領した従業員に対しての取り調べが完了した後、事件は検察庁に送致されます。
検察庁が起訴・不起訴を判断する
事件が警察から検察庁に送致された後は、再度検察庁で調査が行われます。ここでは刑事裁判にかけるかどうか、更に「起訴」か「不起訴」か決定します。証拠が不十分であったり被害金額が大きくない場合は不起訴となることもあります。
刑事裁判が行われる
事件が起訴されたら裁判所で刑事裁判が行われます。刑事裁判で有罪判決が下されると横領した従業員への処罰が言い渡されることになります。
以上が刑事事件として告訴する時の流れです。刑事裁判で有罪判決が下されるということは対象となる従業員には前科がつくということなので、何度も調査を繰り返し慎重に判断していきます。
ここで重要なのは、警察が証拠十分と判断して告訴状が受理された場合であっても後の検察庁や裁判所で証拠不十分と判断されることもあるということです。
依頼する弁護士や警察と綿密に打ち合わせをしてしっかりと証拠を集めることが大事です。
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刑事告訴するときのポイント
横領の裏付けとなる証拠をしっかり集める
業務上横領の事実があったとしても十分な証拠がなければ刑事裁判にかけることができません。十分な証拠がない場合、警察は捜査を始めたくないと考えることが多いので、刑事告訴を受理して操作をしてもらうためにも、刑事告訴の前に対象となる従業員が横領をしたと裏付ける証拠をしっかり集めましょう。
証拠として確実なところだけ告訴の対象とする
警察は証拠上はっきりしない横領については労力をかけて捜査することを嫌がる場合が多いです。告訴を受理してもらうためには証拠として確実な横領のみに告訴の対象を絞ると良いでしょう。
警察への進捗確認を頻繁に行う
他の事件で多忙な警察署など、警察署の中には告訴を受理した場合であっても事件の調査に積極的でないところもあります。操作を迅速に進めてもらうために警察への進捗確認は頻繁に行いましょう。被害者(会社)の調書作成はいつするのか、犯人(横領した従業員)の呼び出しはいつするのかなど逐一確認が必要です。
警察に民事の話をしない
警察は民間のトラブル解決のために捜査を利用されたくないと考える場合が多いので民事の話を嫌がるケースがあります。業務上横領事件の場合、横領金の返済を求める内容証明郵便を郵送して交渉したり民事裁判を起こしたりすることが当てはまります。
横領金の返済を求める場合であっても、スムーズに告訴を受理してもらうために警察の前ではなるべくその話は伏せておいた方が賢明です。
刑事告訴のメリット
損害賠償を受けられる可能性が高くなる
刑事事件として告訴をした時、刑事罰の重さを少しでも軽くするために横領した従業員から損害賠償の示談が提示される可能性があります。もちろんこの申し出に応じるか否かは自由なので、損害賠償の請求が目的である場合はこの申し出に応じてもかまわないと言えるでしょう。
社内秩序を維持する効果がある
社内で発覚した不正行為に対して厳しい処分を取ることで社内秩序を維持することができます。再発防止やコンプライアンスの向上にもつながるためメリットとしてはかなり大きな効果が期待できます。
まとめ
従業員による横領・着服による不正は、発覚した時には高額となっていることが多いです。 数百万円を超える損害となっている場合は、懲戒処分を下すことや刑事事件として告訴する必要もあるでしょう。
もし従業員による横領・不正が発生している場合は、どのような対応をするべきか社内で十分に検討し、処罰を下す場合は慎重に証拠を集める必要があります。今回ご紹介した例を参考に、どのような方針を取るべきか社内でよく話し合ってください。
また今後同じ被害を出さないためにも、金品の管理は厳重に行い横領・着服できない業務システムへ改善していくことが重要です。
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