どんなに採用時に気を使っていても、問題を起こす社員は生まれてしまいます。彼らを雇用し続けるリスクは大きく、仕事にも影響することでしょう。
そこで、解雇を検討する段階に入るのですが、実際に行うには法律に乗っ取った適正な手続きを踏まなければいけません。なぜなら、不当解雇の労働裁判では、会社側に数百万から1000万円の支払い命令が下りている事例があるからです。
そこで、ここでは問題社員への対応方法をご説明します。
・問題社員とは何か
・解雇のリスクとは何か
・問題社員へのケース別対応
・解雇に踏み切る時の流れと解雇の種類
・不当解雇で労働裁判にならない為の準備
など、問題社員への対応と解雇について、簡単ではございますが解説させていただきます。
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問題社員とは
問題行動を繰り返し、業務への悪影響を与える社員のことを問題社員と呼びます。法律上の明確な定義ではありませんが、例えば2週間以上の無断欠勤などを繰り返すなどをした社員を解雇した場合、裁判では適切な解雇であると判断された事例があります。
問題社員の種類について、ケース別に見ていきましょう。
・無断欠勤
・遅刻や早退をくりかえす
・能力不足やサボリ
・セクハラやパワハラをする
・業務命令を無視、異動や転勤命令も拒否する
・トラブルメーカーで協調性が皆無
・情報漏洩を行う
・業務上横領をする
・私生活での犯罪行為
このように、問題社員となるケースは様々です。タイプ別に対応方法を後述しますが、その前に知っていただきたいことがあります。
モンスター化する社員
問題社員は悪化するとモンスター化するケースがあります。モンスター社員と呼ばれていますが、その特徴は呼び名の由来である「モンスターペアレンツ」と酷似しています。
・他人の意見を聞かない
・プライドが高い
・自分が悪影響を与えているとは思っていない
・共感性が無い
という特徴が見られます。職場に悪影響ですので、解雇に踏み切るべきですが、慎重に行わなければいけません。
モンスター社員は会社を「敵側」とみなし、法律を盾に争うケースが多いからです。職場でも敵と味方を区別し、悪い影響を与えます。弁護士を立ててくる場合もありますので、会社側も専門家を立てなければ大きな被害に発展するでしょう。
問題社員に対する基本的な対応
問題社員には様々なパターンが存在しますが、まず基本的な対応から説明していきます。
現状の把握を3か月続ける
使用者には労働者の教育をする義務があるとされています。したがって、問題がある社員でも、時間を置かずに解雇することはできません。その期間として3か月程度が妥当だと言われています。
注意と観察を繰り返す
問題社員の仕事を観察し、問題があれば注意します。改善が見込まれるのであればいいですが、そうでなければ文書で改善されなかった旨を示します。こうすることで、後の解雇に繋がる正当な事由を証明できます。
懲戒処分
問題社員の問題が改善されなかった場合、まず懲戒処分を検討します。降格や減給、配置転換や異動も考慮します。懲戒処分を行う際にも、注意勧告を行ったこと、それに対して改善が行われなかったことを証拠として提示します。
退職勧奨・諭旨解雇
懲戒処分を行っても改善されない場合は、退職勧奨を行います。自己都合退職を勧め、その代りに有休の消化、退職金など会社からの条件を提示します。この時、本人の言い分を聞くことが重要です。会社が一方的に行ってしまうと、不当解雇と取られてしまう可能性があります。
解雇
退職勧奨に応じなかった場合、解雇へと進みます。ここまでもつれた場合、法律に従った正しい手順で行わなければなりません。弁護士に相談するなどをし、解雇をする前にやっておくべき証拠の準備や勧告などを行います。
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問題社員を解雇する前にやらなければいけないこと
解雇にはリスクがあります。使用者(会社側)が解雇権を行使するには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当として是認できる場合でなければいけません。そうでなければ、権利の濫用として解雇が無効になってしまいます(解雇権濫用法理)。
解雇事由において争点になるのは就業規則に定める解雇事由該当性です。その該当性があるとされている場合においてもなお、解雇の相当性が裁判で検討されます。
解雇する前に「客観的に合理的な理由があるのか?」についてチェックしておかなければなりません。
指示は伝わっているか?
問題社員が自分の問題を認識していないケースです。それは口頭での注意には限界があることを意味しています。
もし、問題社員が自分の問題を自覚できれば、この問題はクリアになるでしょう。ですので、まずやるべきは問題社員とのコミュニケーションです。それも、口頭で伝えるのではなく、書類で伝えるのが効果的です。
書類で指示したことなどを残しておけば、後に労働裁判になってしまった場合でも有利な証拠となります。会社として社員への指示を行い、教育もしていたことを文書で残しましょう。
異動・転勤は可能か?
問題社員の適性が、現在の職場にフィットしていない場合があります。異動や転勤の道を提示しましょう。会社として社員の成長を期待し、転勤先での社宅などの環境を整えておくことを証明できれば、裁判でも有利な証拠となります。
教育・注意した証拠を残しておく
日本の法律では、社員は生涯を1つの会社で過ごす事を前提としています。会社が従業員を教育せずに解雇することはできません。
労働裁判になった場合、教育・注意した証拠がなければ会社の不当解雇になる事例もあります。業務日誌や注意した事の証拠を残す必要があります。
判例:セガ・エンタープライゼズ事件(平成11年東京地裁)Y社に平成二年に大学院卒の正社員として採用された従業員Xが、労働能率が劣り、向上の見込みがない、積極性がない、自己中心的で協調性がない等として解雇されたことに対して、解雇を無効として地位保全・賃金仮払いの仮処分を申し立てた事例。(労働者勝) |
この裁判では「教育・指導が行われた形跡が無い」と裁判所が判断をして、労働者の勝訴となっております。
ミス・トラブルの証拠を残しておく
問題社員の犯したミス・トラブルの証拠を残しておきましょう。過去の判例では、仕事のミスと解雇された問題社員の因果関係を証明できず、不当解雇となったことがあります。
判例:高知放送事件(昭和52年最高裁)原告労働者Xは、放送事業を営む被告Y会社のアナウンサーであった。昭和42年に、Xは2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごしたため、午前6時からの定時ラジオニュースを放送できず、放送が10分間ないし5分間中断されることとなった。 また、Xは2度目の放送事故を直ちに上司に報告せず、後に事故報告を提出した際に、事実と異なる報告をした。Yは、上記Xの行為につき、就業規則15条3項の「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」との普通解雇事由を適用してXを普通解雇した。Xは解雇の効力を争い提訴した。 |
アナウンサーが寝坊をしてしまい、2週間の間に2度、生放送に穴をあけてしまったという事例です。このミスが元で首になってしまったアナウンサーが不当解雇の裁判を起こし、最高裁まで争われました。「ミスは認めるが解雇は相当ではない」と判断され、アナウンサー側の勝利となっています。
情報漏洩に注意する
モンスター社員になってしまうと、会社を敵とみなします。そうなってしまうと、自らの行為は全て正しいと思い込むので注意が必要です。情報漏洩はその典型的なケースでしょう。
顧客データを持ち出し、ライバル企業に流す。信用を失墜させるため、情報をネットに漏洩するなど、会社に大きなダメージを与えるのが情報漏洩です。
問題社員のパソコンやスマホから、会社の情報を削除させるなどしておかなければいけません。
職場の空気に注意する
問題社員を解雇すると、職場には動揺が生まれます。例えそれが全員から嫌われている社員だったとしても、解雇権の行使は労働者にとって恐怖と不信の元となります。
解雇する前には、問題社員の上司や幹部とコミュニケーションを取り、なるべく職場に影響がないように準備しておくべきです。
問題社員のケース別対応方法
問題社員となるケースは様々ですが、ここでは代表的なパターンを取り上げます。解雇が相当となるもの、そうでないものの差はわずかです。最終的には弁護士に相談して判断することをお勧めいたします。
無断欠勤・遅刻を繰り返す
問題社員の代表的な事例と言えるでしょう。会社から電話などをする努力が必要ですが、無断欠勤は2週間以上繰り返すことで解雇に相当すると判断されます。遅刻は相当な理由が無いか調査し、懲戒など慎重に処分を下します。よほどのことが無い限り、遅刻で解雇は出来ないとされています。
能力不足・さぼり・休職
能力不足とさぼりによる解雇には、教育や異動などが正しく行われたかが争点となります。証拠とするには書類で行われた形跡を残さなければなりません。特に未経験者は、会社の教育が必要とされ、解雇を相当とするのは難しいでしょう。
休職は従業員が復職することが難しいことなどを証明しなければ解雇は難しくなります。
判例:東京電力事件(平成10年東京地裁)(1) Y社に勤務する慢性腎不全による身体障害等級一級の嘱託社員Xが、平成五年の生体腎移植手術後も、体調が悪く入退院を繰り返し、平成八年四月六日に退院後もほとんど出社せず、同年五月以降の出社日数は、毎月数日で、八月からは全く出社しない状況になった。Yは、Xに対し、同年一〇月二〇日までは、賃金を支給したが、被告は、同年一〇月二〇日に、今後勤務しない分については賃金を支給しない通常の扱いとすることとした。 (2) しかし、Xは、その後もほとんど出社しなかったため、Yは、同年一二月一九日付けで、このままの欠勤状況が続くと平成九年四月一日以降の嘱託雇用契約の継続は困難となる旨の書簡を郵送し、その後、就業規則に定める解雇規定の「心身虚弱のため業務に耐えられない場合」に該当するとして平成九年三月三一日付けで予告解雇をしたことにつき、不当解雇であるとして、Xの定年年齢までの期間の生活保障などを求めた事例。(労働者敗訴) |
この裁判では就業規定に定められた心身虚弱による労働に耐えられない場合に該当されると認定され、解雇が相当であると判断が下りました。
セクハラ・パワハラ
コミュニケーションの一部とセクハラ・パワハラの境界は曖昧です。法律で明記されていませんが、厚生労働省による定義があるので参考にしてみてください。⇒あかるい職場応援団
このような問題社員には、双方のヒアリングと注意勧告を繰り返し行い、改善されない場合は異動・転勤などを含めた懲戒処分を行うことが相当とされます。
異動・転勤拒否
職務上異動や転勤が必要な場合、それを拒否することはできません。ただし、介護が必要な家族の存在など、やむを得ない理由がある場合はその限りではありません。
会社側としても、転勤先への住居など適正な配慮が求められます。
トラブルメーカー・協調性の欠如
チームプレイが求められる職場などでは、協調性の欠如は解雇の理由とすることができます。ただし、先に異動や転勤などを検討しなければいけません。
業務上横領
金銭などを横領し着服するのは犯罪であり、解雇事由となります。本人が横領したという証拠が必要になります。
業務命令に従わない
業務命令を下した証拠、そしてそれに従わないことを本人が認めている証拠が必要になります。文書で残すことになるでしょう。
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解雇の流れと種類について
問題社員への教育が上手くいかず、仕事への悪影響が改善されないのであれば、解雇へと進むことになります。ここでは解雇の種類とそこまでの流れについて説明していきます。
普通解雇と懲戒解雇
解雇には普通解雇と懲戒解雇の2種類あります。どちらの解雇についても就業規則に規定があり、それに従って行われることが一般的です。
問題社員の行為が重大な企業秩序違反行為を犯した場合、その罰も含めて懲戒解雇とすることができます。懲戒解雇をするには、就業規則に必ず規定されていなければなりません。
退職後の再就職や失業保険など、懲戒解雇には重いペナルティが課せられます。それ故に、労働契約法15条において「客観的合理的な理由があり、社会通念上相当でなければならない」と規定されております。(懲戒権濫用法理)
解雇の流れ
問題社員の解雇は、問題を会社でシェアすることから始まります。上司や幹部が問題社員の存在、問題行動、それに対する教育や注意を行ったことを共有しましょう。
解雇が適当と判断されたのなら、証拠を集めていきます。この時点から弁護士が介入すればスムーズに証拠を集めることが出来ます。問題社員のミスや、命令違反など、事実を書類で残していきます。
解雇理由を文書で残し、解雇通知書を作成します。解雇通知書を手渡す時は別室で行い、必ず問題社員の言い分を聞きます。これをしなければ、一方的な不当解雇と裁判所に判断される事例もあるのです。
この時、自主退職を促しますが、応じない場合は解雇通知書を渡します。受け取らなければ後日内容証明で送付します。解雇を不服をするケースでは、準備していた書類などを読み上げることで「自主退職を受けざるを得ない」空気を作るといいでしょう。
あくまで冷静に、法律に則り解雇を告げることがポイントになります。感情などを交えずに問題社員と向き合うのは大変ですので、ここでも弁護士の介入が有効でしょう。
予告解雇と即日解雇
解雇は通常30日以上前に本人に伝えなければいけません。ですが、30日分の賃金を本人に支払えば、即日解雇することができます。情報漏洩のリスクや職場への悪影響を考慮すれば、即日解雇のメリットはあるでしょう。
解雇のリスク
解雇は問題社員の対処における、最後の方法です。解雇する側にもリスクがありますので確認しておかなければなりません。
労働組合や労働裁判への対応はきっちりと行う
解雇される側の権利として、労働組合に加入すること、労働裁判を起こすことがあります。これは防ぐことが出来ませんので、適切に対応しましょう。
労働組合は、たとえ自社になくても加入できる組織があります。組合から解雇に対する問い合わせがあった場合は、適切に対処しなければいけません。
解雇を不服とし、不当解雇の労働裁判を起こすことも本人の権利です。モンスター社員になると会社を敵とみなしますので、裁判の備えは欠かせません。
パート・アルバイトへの解雇にもリスクがある
パートやアルバイトが問題を起こしても、社員と同じように解雇にはリスクがあります。特に雇用契約が有期の場合、労働契約法17条1項により解雇することはできません(懲戒解雇になるような場合を除く)。
リスク回避のためには解雇前に弁護士を立てることが大切
問題社員を職場から排除しようとすると、最終的には解雇になるでしょう。しかし、解雇には不当解雇裁判を起こされるリスクがあり、会社を敵とみなしたモンスター社員であればその危険はさらに高まります。
そこで、解雇する前の段階から、弁護士と相談することをおすすめします。弁護士ならば、もし労働裁判になったとしても、有利な証拠を確実に集めることが可能だからです。
労働裁判で敗訴すると、会社は数百万から数千万の賠償金を支払わなければなりません。問題社員の解雇にはそのリスクがあることを忘れないでください。
まとめ
問題社員への対応を、ケース別に紹介させていただきました。どのケースでも、最終的には解雇という判断になるかもしれません。注意や教育、懲戒が効果的ならば、問題社員はそもそも生まれてこないでしょう。
ですが、解雇は会社が行える最後の手段です。くれぐれも慎重に行うようにしてください。会社の人間だけでは納得させることが難しい場合、弁護士を挟むことで解決することがあります。
自主退職を促したり、転勤や異動を受け入れさせるには、外部の声が効果的です。後のトラブルを避けるためにも、まずは専門家に相談してみてはいかがでしょうか。