役員・従業員による競業会社への転職や競業会社の設立は、会社を危機に陥れます。
従業員について、在職時であれば、通常、就業規則に競業避止義務が規定されていますし、雇用契約上、従業員には競業避止義務がありますので、従業員による競業会社での就業や競業会社の設立は、直ちに違法行為となり、損害賠償請求の対象となります。役員についても、会社法上競業避止義務が規定されており、競業避止義務違反については、損害賠償請求の対象となります。
ただ、役員・従業員の退職以降においては、競業会社への転職や競業会社の設立それだけでは、違法行為や不法行為には該当しません。それだけでは、差止請求や損害賠償請求はできないのです。
ただ、多くの会社では、入社時又は退職時に、役員・従業員に、競業避止の誓約書を差し入れさせていますし、それがなくても、競業会社への転職や競業会社の設立の結果、不正行為・不法行為を行っているのであれば、不正競争防止法上の不正行為に該当し、また不法行為にも該当し、差止請求や損害賠償請求の対象となります。
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役員・従業員による競業会社への転職や競業会社の設立は競業避止義務違反です!
役員・従業員による競業会社への転職や競業会社の設立で、会社がこれまでに積み上げてきたノウハウが流出し、会社の競争力が失われてしまいます。その結果、会社の売上減少に繋がり、会社の存続に悪影響を与えます。
役員・従業員による競業会社への転職や競業会社の設立は、役員・従業員の倫理観の欠如が根本的な原因ですが、役員・従業員の会社に対する不満が蓄積されてそのような不正に手を染めることもあり得ます。
役員・従業員による競業会社への転職や競業会社の設立は、在職中であれば、雇用契約違反や委任契約違反ですが、退職後であれば、法律では禁止されていません。会社としては、だからと言って、全面的に容認するわけにもいかないというのが現実です。
競業避止義務は就業規則・競業避止誓約書・秘密保持契約書に規定されている!
従業員の退職後の競業避止義務については、就業規則にまずは記載することが必要ですが、就業規則だけではリスク対策ができているとは言えません。就業規則への記載は、あくまでも当然であり、最低限の対抗策と予防策なのだと認識が必要です。
従業員の退職後の競業避止義務については、就業規則の記載内容に不備があった場合に効力が否定される可能性もありますし、そもそも従業員が就業規則を理解していないことも多いと言えます。就業規則の他に、競業避止誓約書や秘密保持契約書でカバーする必要があります。
従業員に対しては、入社時にしっかりと就業規則を説明し、競業避止誓約書や秘密保持契約書にサインをもらいます。更に、昇進時には会社の重要な機密に携わる機会が増えることから、新たに競業避止誓約書や秘密保持契約書にサインをもらいましょう。従業員への意識付けを定期的に行うことで予防策にもなります。
厳しすぎる競業避止義務特約は無効?!
競業禁止特約は、就業規則や誓約書で定めます。役員・従業員が競業へ引き抜かれたときなど、顧客情報・営業秘密・企業秘密について漏洩を防ぐために退職時を想定した意味合いが強いと言えます。
たとえば、「従業員は在職中及び退職後2年間、会社と競合する他社に就職し、あるいは競合する事業を営むことをしてはならない」と定められていたとします。会社側から見れば当然の内容とも言えますが、「裁判で争われた場合に「退職者の転職の自由に対する制約が強い」として無効と判断される」ことがあります。
また、「顧客との取引禁止条項は過去のみを禁止するため、制約が弱く、有効と判断され易い」と言えます。更に、「禁止期間」や「担当顧客」と制限をかけることで、有効と判断される可能性が向上します。
期限は退職後2年以内、範囲は担当顧客と限定することが目安です。取引禁止期間が無期限、取引禁止が会社の全顧客、これでは範囲が広くなり過ぎ、無効とされる可能性が出てしまいます。
記載の文言として「顧客に対する営業活動の禁止」では、「営業活動はしていないが顧客の方から連絡があった」と逃れる余地がありますので、「顧客との取引の禁止」として取引自体を禁止する文言が良いです。
過去の判例を参考に、専門家から有効性の高い条項を立案してもらいましょう。
役員・従業員に対しては、対策を専門家と相談した上で、入社時・昇進時などの機会に、役員・従業員に対して、競業行為は禁止であることについて、周知を促し、未然に防止することが必要です。
役員・従業員および退職者の競業避止義務特約
競業禁止特約は、就業規則や誓約書で定めます。役員・従業員が競業へ引き抜かれたときなど、顧客情報・営業秘密・企業秘密について漏洩を防ぐために退職時を想定した意味合いが強いと言えます。
たとえば、「従業員は在職中及び退職後2年間、会社と競合する他社に就職し、あるいは競合する事業を営むことをしてはならない」と定められていたとします。会社側から見れば当然の内容とも言えますが、「裁判で争われた場合に「退職者の転職の自由に対する制約が強い」として無効と判断される」ことがあります。
事案 :建築資材製造・販売業
判決内容:退職後1年間の競業禁止条項を無効と判断 【大阪地方裁判所平成23年3月4日判決】 |
事案 :ビル管理業
判決内容:退職後1年間の競業禁止条項を無効と判断 【東京高等裁判所平成22年4月27日判決】 |
過去の裁判の判決が「判例」です。似たような事案が出た場合には異なる判決が出る可能性もありますが、類似事案の裁判は以前の判決を参考に判断します。よって、法の番人である裁判官が一度出した答えを覆すことは難しくなるのです。過去の判例を参考に、専門家から有効性の高い条項を立案してもらいましょう。
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顧客との競業避止義務(取引禁止特約)
就業規則や誓約書で競業禁止特約とともに、顧客との取引禁止特約を定める場合が多く、顧客情報・営業秘密・企業秘密について漏洩を防ぐため「担当していた顧客との取引禁止」や「担当していなかった顧客については顧客情報の持ち出し禁止」といった条項で防ぐことが有効です。
事案 :清掃用品のレンタル事業
判決内容:退職後2年間を期間とする、顧客との取引禁止条項を有効と判断 【東京地方裁判所平成14年8月30日判決】 |
事案 :照明機器等の製造販売事業
判決内容:退職後6か月を期間とする、顧客との取引禁止条項を有効と判断 【東京高等裁判所平成12年7月12日判決】 |
事案 :教育・コンサルティング事業
判決内容:退職後1年間を期間とする、顧客との取引禁止条項を有効と判断 【東京地方裁判所平成6年9月29日判決】 |
事案 :中古車販売会社の従業員が退職直前に顧客情報を持ち出し、
同業他社に転職し持ち出して自動車を販売 判決内容:損害賠償請求を認めた(約1億3000万円の損害賠償命令) 【大阪地方裁判所平成25年4月11日判決】 |
事案 :製造業の常務取締役らが退職直前に技術情報を持ち出し、他社を設立して製造販売
判決内容:損害賠償請求を認めた(約4億円の損害賠償命令) 【福岡地方裁判所平成14年12月24日判決】 |
事案 :東芝の提携先の元技術者が研究データを韓国企業に持ち出し
判決内容:弁護側は「持ち出したフラッシュメモリーに関するデータの有用性はそれほど高くなく、刑は重すぎる」と主張したが、懲役5年、罰金300万円とした。一審を支持し控訴を棄却した。 【東京地方裁判所平成27年9月4日判決】 |
将来に向けて同業他社への転職を規制する競業禁止特約とは異なり、「顧客との取引禁止条項は過去のみを禁止するため、制約が弱く、有効と判断され易い」と言えます。更に、「禁止期間」や「担当顧客」と制限をかけることで、有効と判断される可能性が向上します。
期限は退職後2年以内、範囲は担当顧客と限定することが目安です。取引禁止期間が無期限、取引禁止が会社の全顧客、これでは範囲が広くなり過ぎ、無効とされる可能性が出てしまいます。
記載の文言として「顧客に対する営業活動の禁止」では、「営業活動はしていないが顧客の方から連絡があった」と逃れる余地がありますので、「顧客との取引の禁止」として取引自体を禁止する文言が良いです。
では、反対に会社が被害を受けたにも関わらず、損害賠償が認められなかったケースを紹介します。
事案 :派遣会社の従業員が顧客名簿を持ち出し不正利用
判決内容:顧客名簿の電子データがパスワードなしに保管されていたこと、携帯電話に顧客情報を入力することも許されていたこと、紙媒体についても第三者への開示を禁止する措置はとられていなかったことを理由に「顧客名簿が秘密として管理されていたとはいえない」と判断 【東京地方裁判所平成16年4月13日判決】 |
事案 :業務を委託先に外注、契約終了後に顧客名簿を利用して引き抜いたため委託先に対して損害賠償を請求
判決内容:顧客名簿を施錠できる保管場所に置いていないこと、顧客名簿が秘密である旨が明示されていないこと、委託先との契約が終了した後に顧客名簿の廃棄を求めた証拠がないことを理由に「顧客名簿が秘密として管理されていたとはいえない」と判断 【大阪地方裁判所平成16年5月20日判決】 |
いずれも「正しい管理」がなされていなかったために損害賠償請求が認められませんでした。
仮処分による競業避止義務違反行為の差止請求
いざ裁判で損害賠償請求を行うとなると、少なくとも1年以上の時間を要するのが通常です。2~3年といった長期戦となる場合もあります。その間も競業行為や情報漏洩が進み、会社の損害が増える一方です。
「内容証明郵便を送っても解決しない場合は、裁判所に対して早期に仮の処分を仰ぐ方法があります」。これが仮処分による差止請求です。
なぜ早期の解決が期待できるのでしょうか。通常の訴訟は1ヵ月に一度の期日が開かれ、主張を聞いたり証拠を提出したりを繰り返し、必要があれば証人尋問を経て判決に至ります。しかし、「仮処分の場合は1~2週間に一度の期日で進行」し、早ければ1~3ヵ月程度で解決する可能性があります。会社側の分が悪い場合であっても、仮処分を申し立てることによって「競業行為などをしている当事者を裁判所に引っ張り出す」こと自体にも意味があります。
あくまでも「仮」の処分ですので、裁判所が下した仮処分は訴訟において覆る可能性はありますが、仮処分の手続を通じて解決する場合が多いです。
ただし、「仮処分を行うには、申立ての段階で数百万円単位の「担保」の提供が必要」になります。金額は裁判所の裁量で決まります。前にも申しました通り、あくまでも「仮」の処分であるため、訴訟では逆の判断、つまり差止を認めない場合も当然にあります。その場合、仮処分を受けた相手方に対して損害を補填しなければならないためです。
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民事保全法 第14条(保全命令の担保)
1項 保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。 |