M&Aにおいては、「対象会社は、労働関連法規(労働基準法及び労働者災害補償保険法を含むがこれに限らない)を、遵守している。」と、売主に表明保証をしてもらうことが多くなっています。
⇒問題社員にお困りの方はこちら!
労働関連法規は多種にわたっている
労働基準法、最低賃金法、パートタイム労働法、男女雇用機会均等法、障害者雇用対策法、高齢者雇用促進法、労働安全衛生法、など多数の法律が存在します。
労働基準法上、使用者は、常時10人以上の労働者を使用する事業場ごとに、所定の事項を記載した就業規則を作成し、その事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長に届け出ることが義務付けられており(労働基準法89条)、また、常時10人以上の労働者を使用する会社において、使用者が就業規則を作成・変更する場合には、その内容について、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、それがない場合は、労働者の過半数を代表する者の意見を聴取し、その意見を記載した書面を労働基準監督署長へ届出の際に添付する必要があります。
また、使用者は、所定の方法により就業規則を労働者に周知させなければならない点(労働基準法106条)も、留意が必要です。
また、労働基準法上、1日8時間週40時間を超える労働は時間外労働、週休制の法定基準による休日における労働は休日労働、とされており非常事由による場合を除いては、事業場における時間外労働・休日労働の労使協定(いわゆる三六協定)を締結し、それを労働基準監督署に届け出た場合は、その協定に定めるところにより労働時間を延長し、又は休日に労働させることができるとされています。
この点、時間外労働・休日労働を行わせることができる範囲は、あくまで三六協定記載の範囲に限られる点に留意が必要です。
なお、従来は、行政通達により三六協定では、1カ月あたり45時間・年360時間などの限度時間が定められていたものの、定められている限度時間数を超えた三六協定の締結・届出が明確に禁止されていなかったこと、特別条項での時間延長に関し、限度が定められていないことが問題点とされていたが、政府の進める働き方改革の一環による労働基準法改正により、一定の事業を除き、時間外労働の上限について、1カ月あたり45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも単月100時間(休日労働含む)、年720時間(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定することが必要となる点に留意が必要です(なお、改正法の適用は、大企業については平成31年4月1日、中小企業については平成32年4月1日からの予定である)。
⇒元従業員の未払い残業代でお困りの方はこちら!
労務コンプライアンス1 最低賃金法について
最低賃金法については、地域別最低賃金として、産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として、各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。
その他、特定最低賃金として、特定地域内の特定の産業について、関係労使が基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めるものについて設定されている。
なお、精神又は身体の障害により著しく労働能力が低い者など一定の場合は、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたことを条件に労働能力等を考慮して定められた一定率を減額した金額が最低賃金となります。
労務コンプライアンス2 障害者の雇用の促進等に関する法律について
障害者の雇用の促進等に関する法律上、一定数以上の労働者(なお、一定の短時間労働者は0.5人と換算する)を雇用する一般事業主は、一定の割合の障害者雇用率を達成する必要があり、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければいけません(障害者の雇用の促進等に関する法律43条)。また、常時100人を超える労働者を雇用する事業主は、法定の障害者雇用率が未達成の場合は、障害者雇用納付金を納付する必要があります。
高齢者等の雇用促進等に関する法律は、使用者に対し、①定年年齢の65歳以上への引き上げ、②65歳までの継続雇用制度導入、又は③定年制度廃止、のうちのいずれかの措置を行うことを使用者に義務付けています(高齢者等の雇用促進等に関する法律9条)。これに違反した使用者に対しては、労働局からの指導・勧告の他、事業者名の公表等の制裁が科される可能性があります(高齢者等の雇用促進等に関する法律10条)。
労務コンプライアンス3 労働安全衛生法について
労働安全衛生法は、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、事業場内における責任体制の明確化、事業者の自主的活動の促進の措置など労働災害の防止に関する総合的計画的な対策の促進により、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成の促進を目的としています(労働安全衛生法1条)。
労働災害がひとたび発生すると、労働安全衛生法違反等により、刑事責任が追及され得るほか、事業場の設備の使用停止命令、作業中止命令などの行政処分が下されることがあります。
また、労働災害が発生すると労働者災害補償保険法に基づいて必要な保険給付が行われるものの、労災保険において労働者の損害のすべてが補償されるわけではなく、労働者ないしその家族より雇用契約上の安全配慮義務違反を根拠として損害賠償を請求され、義務違反の認定に当たっては労働安全衛生法を遵守していたかどうか重要な判断材料とされる点、留意が必要となります。
労働安全衛生法は、その他、事業場の規模に応じて、安全衛生管理に関する責任者や担当者、産業医を選任すること、安全委員会や衛生委員会等設置運営することを義務づけています。
また、労働安全衛生法は、労働者の経験や知識不足による労働災害の発生の防止のため、①雇入れ時の教育(労働安全衛生法59条1項)②作業内容変更時の教育(労働安全衛生法59条2項)、③一定の危険業務を実施する者に対する特別の教育(労働安全衛生法59条3項)、④職長の教育(労働安全衛生法60条)、⑤安全衛生水準向上のための教育(労働安全衛生法60条の2)の実施を義務付けています。
また、労働者の健康の保持・増進の観点から、常時使用する労働者を雇い入れた場合には、業種および規模を問わず、雇入れ時および定期的な医師による健康診断を実施しなければいけません。
さらに、一定の有害業務に従事する労働者に対しては、医師による特殊健康診断、歯科医師による特殊健康診断を実施する必要があります。
健康診断の結果、異常所見があると診断された労働者に関しては、当該労働者の健康を保持するための必要な措置について医師又は歯科医師の意見を聴取しなければならず、同意見を勘案し、必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会もしくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他適切な措置を講じなければならないとされています。
また、事業者は、週単位の時間外労働が1ヶ月100時間を超え疲労の蓄積が認められる労働者に対しては、医師による面接指導を行い、その結果を記録し、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聴取し、同意見を勘案して必要があると認められるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの必要措置を講じなければならないとされています。
また、事業者は、労働者に対し、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う必要があります。
⇒元従業員から不当解雇を言われお困りの方はこちら!
労務コンプライアンス4 男女雇用機会均等法、育児介護休業法、外国人の従業員が存在する場合の出入国管理及び難民認定法
その他にも男女雇用機会均等法、育児介護休業法、外国人の従業員が存在する場合の出入国管理及び難民認定法など労働関連法規は多岐にわたる点、留意する必要があります。